"夫が私を退職させた翌朝、会社は夫を呼び出した" 第1話
テーブルのに置かれたショートケーキのイチゴは、のにさらされて、端のほうからしだけ乾き始めていた。
。
数字の形をしたさなロウソクには、度もが灯されていない。
「おの退職願、さっき会社の総務にメールで送っておいたから」
夫の健は、元にあった缶ビールのプルタブを気よく引き抜いた。プシュッという乾いた音が、静まり返ったリビングに響く。
「からはもう、勤しなくていいぞ。制とかロッカーの荷物は、で着払いで送ってもらえばいいだろ」
まるでの気がれだと告げるような、あまりにも平坦な声だった。
私の向かい側の席では、義母の枝が嬉しそうに目を細め、お茶をすすっている。
「よかったわねえ、由美さん。これでやっと、嫁としての務めに専できるじゃない。私のデイサービスの送り迎えも、病院の予約も、に頼むのは世体が悪くて気が気じゃなかったのよ。あなたのあの遣いみたいな料じゃ、ガソリン代にもなりゃしないんだから」
私の喉の奥が、急速に干からびていく。
指先が微かにたくなり、膝ので揃えていた指が、自分でも気づかないうちにスカートのをく握りしめていた。
……は? 今、このたちは何を言っているの?
私は鳴り声をあげることも、取り乱すこともせず、ただ静かに夫の顔を見つめた。
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「退職願って……どういうこと?」
「言葉通りのだよ」
健は面倒そうにを鳴らし、スマートフォンの画面を私の方へ滑らせてきた。
そこには、見慣れた画面が表示されていた。 私が自宅の斎机に置きっぱなしにしていた、会社の業務用ノートパソコン。そのメール送信履歴のスクリーンショットだった。
宛先は、株式会社ミツワ品・事総務部。 件名には『退職願(品質管理部・佐藤由美)』と、私の社員番号まで正確に打ち込まれていた。
本文にはこうかれていた。
『の都(義母の宅介護および庭の事)により、本付をもちまして退職いたしたく、ここにお願い申しげます』
さらにそのには、事部の自受信通メールが貼り付けられていた。
「会社のパソコンのパスワード、おの誕のままだろ。危管理がなってないんだよ」
健は自げに笑った。
「ちょうどいいだろ。今で、勤続。パートがりの叩きげにしちゃ、分すぎるほどく働いたよ。これからはで、男の嫁らしく母さんの面倒を見ろ」
私は画面から目をし、健の濁った瞳をじっと見据えた。
「会社は……田島部は、これを本当に認めたの?」
。 私がこの会社で積みげてきたのみを、この男は本当に理解していない。
健はビールの缶をテーブルに置き、勝ち誇ったように胸を張った。
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「当たりだろ。田島さんには、先週のゴルフの帰りに俺から直接話を通してある。『奥さんもよくやってくれたが、庭を優先する潮だろう』って、すんなり納得してくれたぞ」
田島正彦。 ミツワ品のであり、健のの先輩でもある男。
私の胃の底が、ぞっとするようなたさで満たされた。
田島が、そんなにあっさりと私の退職を認めるはずがない。 現、製造ラインでは今期最の主力製品の荷を巡って、私と田島ので激しい衝突が起きていた真っ最だったからだ。
「そう」
私はそれ以、何も言わなかった。 泣き叫ぶことも、夫のスマートフォンを叩き割ることもせず、静かに席をった。
「なんだよ、文句もなしか。案、物分かりがいいじゃないか。は母さんの病院の付き添いだからな、朝にはをせるようにしておけよ」
背から健の満げな声が聞こえた。 義母が「はデパのあられを買ってちょうだいね」と楽しそうにねだる声もなる。
私はリビングをて、暗い廊を歩いた。 臓が、肋骨の内側を激しくノックするようにねていた。
翌朝、午分。
リビングでは、健が革靴のかかとを踏み潰しながら、かける準備をしていた。 洗面所からは義母の「由美さん、私の補聴器はどこ?」と呼ぶ甲い声が響いている。