"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第24話
私はずっと、取引をしてきたのだ。 誰かを犠牲にしてを守り、嘘をついて庭を守り、今度はと反省を差しして、妻の許しを買い取ろうとしていた。
は、損得勘定の帳簿ではない。 私が踏みにじってきたのは、数字ではなく、のの尊厳だったのだ。
数秒の沈黙の、私はゆっくりと顔をげた。 美智子は、微だにせず私を待っていた。
私は、美智子の瞳をまっすぐに見据えた。 胸の奥から、計算も、言い訳も、見返りへの期待も、すべて削ぎ落とされた言葉が、ぽつりと零れ落ちた。
「……わない」
声はさかったが、濁りはなかった。
「おが戻らなくても。俺が、で惨めに暮らすことになっても……これは、俺が自分で作った借だ。俺が返さなきゃいけないものだ」
息を吸い込み、私はもう度言った。
「おが戻るかどうかとは……何の関係もない」
まれて初めて、私はの反応を伺わずに、自分の責任を引き受けた。
美智子の瞳が、かすかに揺れた。 その氷のような表が、わずかに緩み、、私と結婚した頃に見せていた、懐かしい柔らかさが瞬だけ戻ってきたように見えた。
美智子は、さく息を吐いた。 そして、痛ましいほど寂しそうに、微笑んだ。
「そう。……しだけ、昔の修さんに戻ったみたいね」
「美智子……」
「でも、ごめんなさい」
美智子は首を横に振った。
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その微笑みのまま、決定な線を、静かに引いた。
「やり直すことは、できないわ」
胸の奥で、何かが静かに崩壊した。 激しい痛みはなかった。ただ、たいが、空っぽになった胸の空洞を通り抜けていくだけだった。
「私はね、あなたを許すために真実をりたかったんじゃないの。あなたかられるために、あの嘘を終わらせる必があったのよ」
美智子はバッグから、枚の封筒を取りした。 緑のラインが入った、区役所の用。
『婚届』
美智子の署名と捺印は、すでに完璧に済まされていた。
「は売りましょう。宅ローンを完済して、残ったおは半分に分けるわ。私の名義の預も、神先を通じて正確に折半する。……それで、お互いに自分のをきましょう」
美智子はちがった。 伝票をに取り、私に向かって、々とをげた。
「、お世話になりました」
それは、妻としての最の挨拶だった。 引き止めるは、もうかなかった。
美智子はレジへ向かい、自分のコーヒー代だけを置いて、をてった。 ガラス越しに見えたその背は、驚くほど真っ直ぐで、のたい空気のへと、軽やかに吸い込まれていった。
季節がつ巡り、桜の季節も過ぎったの初め。
私は、京浜線の線沿いにある、築の造アパートに暮らしていた。
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呂なし、トイレ共同の畳。 かつての建売宅は無事に売却され、宅ローンを相殺した残余は、美智子と正確に百万ずつ分けった。 私の元に残った百万のうち、百万は誠さんへの括支払いに消え、残りは引っ越し費用と当面の活費でほとんど底をついていた。
部にあるのは、リサイクルショップで買ったさな蔵庫と、物の煎餅布団、そしてさな製のローテーブルだけだ。
会社にはまだ籍を置いている。 だが、役職は解かれ、若い社員たちので、部品の梱包と荷伝票の仕分けをする々だ。 毎の料には、取りの与から真っ先に万円を引きし、誠さんの指定座へ振り込んでいる。 通帳に刻まれる送の記録だけが、私がこの世界に繋ぎ止められている唯の証拠だった。
林の修理には、先、会社のトラックの故障で度だけ顔をした。 林は私を瞥しただけで、親しげなを利くことも、鳴りつけることもなかった。 ただ、職として完璧にオルタネーターを修理し、正規の請求を会社宛てに切った。 帰り際、私が「ありがとう」とをげると、林は背を向けたまま、く言った。 『仕事ですから』 それだけだった。 許されたわけではない。だが、私はもう、許しを乞うためにあの所へくことはない。
午分。
夕の納豆ご飯と豆腐の噌汁を片付け、テーブルを拭いていた、畳のに置いたスマートフォンがさく震えた。