"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第22話
部の線が、私に集した。
私はスーツの内ポケットにを入れた。 そこには、今朝番での窓へき、解約続きをしてきた個保険の解約返戻の通が入っていた。 歳以の活を支えるはずだった、私の唯の蓄え。 そこから捻した百万円の形と、残りの百万円を今にわたって毎万円ずつ分割で振り込むための誓約。
喉がカラカラに渇いていた。 臓が肋骨の内側を激しく叩いている。 これを認めて実印を押せば、私のこれからのは、定を過ぎてもなお、過の負債を返し続けるだけのものになる。 逃げは完全に塞がれる。
美智子の顔を見た。 美智子は、ただ静かに私を見つめ返していた。 すがりつくような願も、酷な嘲笑もそこにはない。 ただ、『あなたが何を選ぶのか』を確かめるためだけの、澄み切った瞳。
「……異議はありません」
自分の声が、く内に響いた。 震えは、議と止まっていた。
「私の過失です。すべて、この通りに作成してください」
机の向かいで、由紀が息を呑む音が聞こえた。 由紀はハンカチを元に当て、溢れそうになる涙を必に堪えていた。 それは勝利の涙ではなかった。 自らもまた、林を見殺しにしてに入れたの契約の霊から、ようやく引き剥がされたの、痛ましい呻きだった。
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公証が頷き、類を差しした。 「では、それぞれ署名と実印の捺印をお願いします」
私はペンを取り、指定された箇所に自分の名をき込んだ。 朱肉をつけ、実印を押し込む。 赤い印が、のに鮮に焼き付けられる。
次に、誠がペンを取った。 かないをで押さえ、だけで格好にペンを握る。 歪んだ、震える跡で、ゆっくりと『誠』とかれていく。 そのぎこちないのきを見つめながら、私は、この男が背負ってきた現実のさを、初めて皮膚の覚として理解した。
続きが終わったのは、正午過ぎだった。
公証役のい扉をた廊で、誠がを止めた。 由紀がその半歩ろでち止まる。
「さん」
誠が振り返った。 その顔には、朝の険しさは消えていた。だが、解の微笑みなど微もない。
「毎、振込が確認できたら、領収をあんたの会社宛てに送るよ」 「……ああ。頼む」
「これで、あんたの罪が消えたわけじゃない」 誠の声は淡々としていた。 「俺のは戻らないし、林さんの失われたも戻らない。……だがな、俺たちが『被害者』の面をして、過のみで自分たちの今の活を壊し続けるのは、今で終わりにさせてもらう」
誠はそれだけ言うと、由紀の肩にを添え、エレベーターへ向かって歩きした。 由紀は私ので度だけくをげ、に夫のに続いた。
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エレベーターの扉が閉まる瞬まで、誠が振り返ることはなかった。
廊の窓からを見ろすと、通りの向かいの自販売のに、見覚えのあるがっていた。 汚れたジャンパーを着て、くキャップを被った男。 藤原だった。
男はくから公証役のを見つめていたが、私と目がった瞬、線を逸らし、背を丸めて駅の混みのへと消えていった。 声をかける気にはならなかった。 私たちがで分かちっていたはずの『絆』など、最初から欺瞞と保の糊で張りわせた張り子の虎に過ぎなかったのだ。
廊に、私と美智子、そして神弁護士のだけが残された。
「では、私はこれで失礼します」 神弁護士は類鞄を抱え、美智子に向かって会釈した。 「美智子さん、産の査定と、財産分与の細については、事務所でお渡ししますね」
「ありがとうございます、先」
弁護士がちり、きりになった。 の陽射しが、ガラス窓を通してく廊のを照らしている。
「……美智子」 私は乾いた唇をいた。 「し、歩かないか。話したいことがある」
美智子は計を見ることなく、ただ静かに頷いた。
駅のチェーンの喫茶。 昼の喧騒かられた奥の禁煙席で、私たちは向かいって座った。
テーブルのには、つのブレンドコーヒー。
湯気がちるカップを見つめながら、私は胸の奥底に溜まっていた言葉を、滴ずつ絞りすようににした。