"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第18話
「……謝りたかったんだ」 私のからた言葉は、自分でも驚くほどさく、惨めに震えていた。
「あの、何もしてやれなかったから……しでも、しになればと……」
「嘘ばっかり」 美智子の声は、囁くようにかった。 「自分のためでしょう。私がをてったから、自分が悪者になりたくなくて、慌てて善のふりをしにっただけじゃない」
反論できなかった。 言い訳の言葉は喉元までかかっていたが、林のたい目が脳裏をよぎり、言葉が声にならなかった。
喫茶の古いスピーカーから、掠れたクラシック音楽が流れている。 カップの湯気が途切れ、黒い液体がえ固まっていく。
「美智子」 私は乾いた唇を舐め、テーブルに両をついた。 指先が刻みに震えていた。
「……話すよ。全部話す」
美智子は何も言わず、ただ私の目をじっと見つめた。 その差しから逃げるように、私はえ切ったコーヒーの表面に線を落とした。
「っていたんだ」 声が震えた。もの、誰にも言わず、自分自にすら嘘をつき続けて隠してきた事実。 「事故が起きる、番のプレスのクラッチが滑ってるって、藤原から報告を受けていた」
美智子の指先が、わずかにピクりとねた。
「修理業者を呼べば、部品の調達に週、交換にかかるって言われた。でも……あの週は、の自部品の納期だったんだ。
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もしラインを止めて納期に遅れたら、違約が発して、取引を切られることになっていた」
私の額から、じわりとたい汗が滲みる。
「の追加融資も断られて、形の決済が末に迫っていた。あのラインを止めたら、その瞬に倒産だったんだよ。だから……俺は藤原に命じた。『騙し騙し回せ』って。『異音がしたら油を差して、今週だけ乗り切れ』ってな」
言ってしまうと、臓の鼓がの奥で激しく暴れ回った。 言ってしまった。 私は自らので、自分が事故の引きを引いた張本であることを認めたのだ。
「……そう」 美智子のから漏れたのは、い吐息だけだった。 激昂するでもなく、泣き崩れるでもない。
「責めないのか?」 私が恐る恐る顔をげると、美智子はく、自嘲するように微笑んでいた。 その笑みを見た瞬、私の背筋にたい粟がった。
「責める? 私が、あなたを?」 美智子は首を横に振った。
「修さん。私ね、のあの夜のこと……ずっと覚えてるのよ」
「……え?」
「誠さんが運ばれた病院から、あなたが夜のに帰ってきたのこと」 美智子の瞳が、過の暗を覗き込むように濁っていった。
「あなたのスーツには、油と、病院の消毒液の匂いが染み付いてた。リビングでウイスキーを煽りながら、あなたが呟いたのよ。『藤原の言う通り、械を止めておけばよかった』って」
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を鈍器で殴られたような衝撃だった。 記憶の彼方に消えていた、あの言。酒に逃げ、朦朧とした識ので漏らしたはずの呟き。
「私はその、聞いたわよね。『修さん、それどういう? 械がおかしかったの?』って。……そしたらあなた、グラスをに叩きつけて鳴ったじゃない。『おには関係ない! 俺を疑うのか!』って」
美智子のが、テーブルののペーパーナプキンをぎゅっと握りしめた。
「怖かったのよ、私」 美智子の声が、初めてわずかに震えた。
「その、宅ローンを組んでまだ目だった。息子の学も控えてた。もしあなたが過失を認めて、警察に捕まったり、莫な損害賠償を背負ったりしたら、私たちの活はどうなるのかって……元が崩れるような恐怖だった」
美智子は線を伏せ、膝のを見つめた。
「だからね、私、自分に言い聞かせたの。『主は悪くない。運が悪かっただけ。藤原さんが全部悪いんだ』って。あなたの鳴り声を言い訳にして、私はそれ以、何も聞かないことを選んだのよ」
「美智子、それは……」
「信じてたんじゃないわ」 美智子は私の言葉を遮った。 その顔には、い、癒えることのない自己嫌悪が刻まれていた。
「私はあなたを信じてたんじゃない。自分の平穏な活を守るために、あなたの嘘に相乗りしたの。あなたが毎晩遅くまで働いて、借を返して、苦しんでいる姿を見て……『これで罪は償えてる』『私たちは分苦しんだ』って、自分を納得させてた」