"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第17話
……あれから、俺はをすするいでこのさな修理をちげて、やっとでっていけるようになったんです」
林は作業台ののい封筒を、スパナの先端で無造作に弾いた。 封筒はに落ち、黒く汚れたコンクリートのを滑っていった。
「そんな端で、俺のを買い取れるとうな」
「林くん……」
「あんたが今、庭でどんな目に遭ってるからないがね。自分を救うために俺を使うな。あんたが謝りたいのは俺じゃない。罪悪から逃げして、綺麗な体のまま老を迎えたい自分自に、言い訳がしたいだけだろ」
林は背を向け、再び耕運のエンジンに向き直った。 スパナを握り直すの甲に、青い血管が浮きている。
「帰ってください。度と来るな。……あんたの顔を見てると、油の匂いまでくなる」
私はに落ちた汚れた封筒を、拾いげることができなかった。 膝が震え、そのにち尽くす私に、林は度と線を向けなかった。 属を打ち鳴らすたい乾いた音だけが、狭い作業に容赦なく響き渡っていた。
作業をた私は、摩川のに沿ってあてもなく歩いた。 たい川が、くなった髪を乱暴に撫で回す。 ポケットののスマートフォンが、激しく振した。
画面を見ると、見慣れない固定話の番号。
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恐る恐る通話ボタンを押し、に当てた。
「……もしもし」
『修さんですね』 落ち着いた、代半ばとおぼしき女性の声だった。 『品川駅の、神法律事務所の弁護士の神と申します。美智子さんの代理としてご連絡いたしました』
臓がキュッと収縮した。 「……弁護士? 美智子が、本当に頼んだんですか」
『ええ。先ほど、美智子さんご本から正式に受任いたしました。つきましては、別居に伴う婚姻費用の分担、および今の夫婦関係についての協議をいたいのですが、まずは当事者同士で度、静にお話しいをされるはございますか?』
「話します! もちろん話します! 美智子はどこにいるんですか? 今すぐ会わせてください!」 なりふり構わず叫ぶ私に、弁護士は静かに、けれど確な境界線を引くように告げた。
『直接のご自宅への訪問はお控えください。美智子さんも、第者を交えない形での面会にはいをじておられます。……ですが、美智子さんから点だけ、条件付きで「だけで話してもいい」との言伝を預かっております』
「条件? 何でも聞きます!」
『本、午。反田駅の喫茶です。制限は。そこで修さんが「本当のこと」を話さない、以の協議はすべて庭裁判所の調続きに移します。……よろしいですね?』
通話が切れた。
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本当のことを話さない。 その言葉が、最通牒のように私の胸に突き刺さった。
もう、逃げはなかった。 藤原の脅しをかわすことも、誠さんを言いくるめることも、林にを握らせることも、すべて失敗した。 私の賢しい作は、何つとして通用しなかったのだ。
午分。 反田の裏にある、創業の暗い純喫茶。 赤いビロードのソファーの隅に、美智子はすでに座っていた。
黒いタートルネックのに、なグレーのカーディガンを羽織っている。 化粧はく、目のには隠しきれない隈が浮かんでいた。 私が向かいの席に腰をろしても、美智子はメニュー表から線をげようとしなかった。
「……美智子」
運ばれてきたつのアメリカンコーヒーから、湯気がちる。 美智子はスプーンにを触れず、組んだ両を膝のに置いたまま、静かにをいた。
「林さんのところへったんですってね」
喉が詰まった。 「……どうして、それを」
「藤原さんから、由紀さんに話があったそうよ。『が当の帳簿を持って嗅ぎ回ってる、林のところへくかもしれない』って。それで由紀さんが、さっき林さんに確認したの」
美智子はゆっくりと顔をげた。 その瞳は、昼区役所で見たよりもく沈んでいた。 りではなく、底れぬ疲労が、連れ添った妻の顔を覆っていた。
「あなた、林さんに何をしたの? また、おを押し付けたの?」