"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第14話
私がどんないで、毎晩あなたをから追いしていたか……あなた、度でも考えた?」
喉が詰まった。 美智子の目が、私のの奥底を酷に見透かしていた。
「私はね、確かめたかったのよ。由紀さんから最初にをもらった、私は信じたかった。『夫はそんなじゃない。事故は抗力で、あのは精杯誠を尽くしたはずだ』って、あなたを信じるための証拠を探したかったの」
美智子のが、バッグのから通の角形号の封筒を取りした。
「でも、あなたが私にくれたのは何だった? 『らなかった』という嘘。由紀さんへの恫。誠さんを利用した裏作……全部、自分の保のためだけの浅ましい掻きじゃない」
美智子は封筒から、ホチキス留めされた数枚の類を引き抜いた。 その番には、太いゴシック体でこう印字されていた。
『婚姻費用分担請求』
そして、そのにはもう枚、見慣れない式がなっていた。 『別居(案)』
血の気が、気に元へ引いていった。
「……美智子、これ、は何だ」
「今、法律相談のに、庭裁判所の受付に提するわ。私の代理になってくれる弁護士の先も、もう配してある」
「別居……? ……? 待て、待ってくれ! 婚する気なのか?!」
「今はまだ、別居よ」 美智子の声は、どこまでも平坦だった。
「でも、私はもうあなたのいるには戻らない。
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妹のマンションのくに、暮らし用のアパートを借りる契約をめてる。この類は、別居の私の活費と、これからの続きについての申し入れよ。来週、私の弁護士からあなたの会社に正式な受任通が届くわ」
「会社に……? 馬鹿なことをするな! 会社にそんなものが届いたら、俺のはどうなる!」 わず叫んだ私の言葉に、美智子はしそうに、けれど完全にめ切った目で微笑んだ。
「ほらね。最まで、自分ののことだけ」
美智子は類を封筒に戻すと、私の胸元へと差しした。 受け取らざるを得なかった。 指先に触れたの触が、鉄板のようにたかった。
「美智子、頼む……考え直してくれ。悪かった。嘘をついたのは謝る! 藤原にも、誠さんにも、ちゃんとをげるから!」
私はロビーの真んで、みっともなく懇願した。 プライドも世体も、元から崩れっていく恐怖のには何の役にもたなかった。
だが、美智子は度とち止まらなかった。
「きましょう、由紀さん。がもったいないわ」
「美智子!」
私の制止を背で聞き流しながら、美智子は由紀を促し、階へ続くエスカレーターへとを踏み入れた。 スーッとがっていくの背。 度も、振り返ることはなかった。
ロビーの喧騒の、私は元に残された茶封筒を握りしめたまま、ち尽くしていた。
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周囲の職員や民たちの、好奇と侮蔑の混ざったたい線が、無数に突き刺さる。
守ろうとしたものは、何つ残らなかった。 私の浅ましい計算と、賢しい保のすべてが、最悪の形で妻のによって断罪されたのだ。
エレベーターホールの計が、午を告げる子音を鳴らした。 ピピッ、ピピッというその無質な音が、私のの結婚活の終わりの始まりを告げているようだった。
品川区役所のエスカレーターをがっていく美智子の背を見失った、どうやって自宅まで帰り着いたのか、記憶が抜け落ちている。
気がつくと、私は暗がりのに座っていた。 靴も脱がず、玄関のがり框に腰をろしたまま、元に残された『婚姻費用分担請求』のい束を握りしめていた。
指先がえ切っている。 喉の奥がカラカラに乾き、唾をみ込むたびに鉄のがした。 リビングの壁掛け計が、カチリ、カチリと無質な音を刻んでいる。 午。 いつもなら美智子がスーパーのパートを終え、買いしのポリ袋を両に提げて帰ってくるだ。
「……やり直せるはずだったんだ」
誰もいない廊に向かって呟いた声が、掠れて消えた。 美智子は本気だった。 区役所のロビーで突きつけられた類のたさ。 私の目を見つめ返した妻の瞳には、りも、しみも、未練すら残っていなかった。
ただ、積みげてきたものを、自らので丁寧に解体していくの、恐ろしいほどの静寂だけがあった。