みかん小説
本棚

"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第12話

誠が勤務している商業施設のすぐく、古い造の階建てアパート。

午過ぎ、買いしのビニール袋を提げた由紀が、階段をってきた。 踊りで待ち構えていた私を見るなり、由紀は息を呑み、ずさりした。

「……また、あなたですか。警察を呼びますよ」 「呼べばいい」 私は階段のすりにをかけ、由紀の逃げを塞ぐようにちはだかった。

「さっき、誠さんに会ってきた」 その言で、由紀のが止まった。 買いし袋ののネギが、カサリと音をてる。

「……誠に?」 「ああ。職の駐で、全部聞いてきたよ」 私はあえて、同するような、落ち着いた声を作った。

「由紀さん、もうやめなさい。誠さんはね、あなたに過をほじくり返されるのが、番苦痛なんだと言っていたよ」 由紀の顔から、サーッと血の気が引いていくのが分かった。

「……嘘よ」 「嘘じゃない。本のから直接聞いた。『俺はもう被害者としてきるのは嫌だ』『由紀がやってるのは俺のためじゃない、自分のエゴだ』ってな。誠さんは、今の静かな活を守りたがっている。あなたがやっていることは、あのをもう度傷つけているだけだ」

由紀の唇が、刻みに震え始めた。 握りしめられたビニール袋の持ちが、くなった指にい込んでいる。

「あんたがに納得できなかったのは分かる。

広告

だが、当事者である誠さんが終わらせたがっているんだ。それを妻のおが蒸し返して、私の庭まで壊して……体何がしたいんだ? 誠さんを、庭崩壊に追い込みたいのか?」

残酷な言葉だと分かっていた。 だが、こうして相の急所を突かなければ、私の常は戻らないのだ。 由紀を黙らせ、美智子を取り戻す。そのためなら、の夫婦の古傷を抉ることなど、何でもなかった。

由紀は、俯いたままかなかった。 アパートの狭い廊に、くをるの音だけが響く。

勝った、とった。 由紀はもう何も言い返せない。これで美智子への連絡も止まるはずだ。

だが。 ゆっくりと顔をげた由紀の瞳を見た瞬、私の背筋にがった。

泣いてはいなかった。 そこにあったのは、激しい軽蔑と、底れぬりだった。

「……さん」 由紀の声は、をうようにかった。

「あなた、本当に……汚いね」 「何だと?」

「夫がそう言ったのは、本当でしょうね。あのは優しいだから。これ以、私に苦労をかけたくなくて、自分がすれば全部丸く収まるって……、ずっとそうやって諦めてきただから」

由紀は歩、私に向かって踏みしてきた。 その気迫に気圧され、私の方がわず歩退りした。

「でもね、それをあなたが言う筋いがあるの? 夫が諦めざるを得なかったのは、誰のせい? あなたが嘘をついて、械の故障を隠して、雀の涙の示談で追いしたからじゃない!」

広告

「だから、その示談の残りを払うと——」

「夫の痛みをダシにして、自分の妻を説得しようとするなんて……どこまで卑怯なのよ!」 由紀の叫び声が、アパートの廊に響き渡った。

「どうしてあなたは、いつも誰かに代わりに終わらせてもらおうとするの?! 昔は藤原さんを使って私たちを言いくるめ、今度は私の夫の諦めを利用して私を黙らせようとする! 自分ので、自分の罪を認めることもできないくせに!」

「由紀さん、声をすな!」 「私は絶対に引かないわ。美智子さんにも、今のあなたの姿を全部伝える。あなたがどんなを使って夫を脅し、私を黙らせようとしたか……全部ね!」

由紀は私の体を力任せに押し退け、アパートの鍵をけてへ滑り込んだ。 ドアが激しく閉まり、内側から閂が差される。

私は階段の踊りで、荒い息を吐きながらち尽くした。 臓が鐘を打っている。 失敗した。 誠の言葉を使えば黙るとっていたのに、かえってに油を注いでしまった。

ポケットので、スマートフォンが振した。 美智子からだった。 をてってから、初めての着信。

画面をスワイプし、に当てる。 「……美智子か! 美智子、聞いてくれ、私は——」

『……最ね』

氷のようにたい、美智子の声だった。

『由紀さんから、メッセージが届いたわ。あなた、さんの職にまで押しかけたんですってね。

誠さんを言いくるめて、由紀さんを脅したの?』

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: