"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第9話
踊りの蛍灯がチカチカと気に滅し、古びたコンクリートの壁には湿気と油の匂いが染み付いていた。
402号。 ドアの隙から、テレビのバラエティ番組の笑い声と、魚を焼く煙の匂いが漏れていた。 私は迷わず、錆びついたインターホンをく押し込んだ。
ピンポーン、との抜けた音が鳴る。 音がづき、ドアチェーンがかかったまま、鉄の扉が数センチだけいた。
「……誰だ」 現れたのは、髪の混じった伸び放題の髪に、首元がヨレたラクダのラクダシャツを着た藤原だった。 目元にはい隈があり、無精髭が頬を覆っている。 私の姿を認めた瞬、藤原の濁った瞳が細められた。
「……社。話だけじゃ飽きらず、ここまで押し掛けてきたのか」 「藤原さん、頼む。に入れてくれ。ち話で済む話じゃない」
藤原はあからさまに舌打ちをしたが、周囲のドアを警戒するように線をらせると、チェーンをしてドアをけた。 「……靴、脱いでがれよ。散らかってるがな」
畳の内は、の踏みもないほど荒れ果てていた。 万の煎餅布団、コンビニ弁当の空き殻、皿から溢れかえった煙の吸殻。 かつて私ので、現主任としてい員を鳴り散らしていた男の成れの果てだった。
藤原は座布団も勧めず、掛けの壊れかけのパイプ子に腰をろすと、机ののハイライトにをつけた。
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煙が狭い部に充満する。
「で? 何の用だ。奥さんに逃げられたか?」 藤原がで笑った。
臓がドキンとねる。 「……美智子から、何か聞いたのか」 「話の声で分かるよ。あの奥さん、昔からあんたの嘘には倍敏だったからな。が潰れる直、うちの女のところに泣きついてきたことがあったぜ。『主は何か隠してないか』ってな」
初だった。 美智子が、藤原の妻に接触していた? もの話を、私は今になって初めてらされたのだ。
「藤原さん、昔の帳簿と報をしてくれ」 私は単刀直入に切りした。 「残っているんだろう? あのプレスの点検記録だ」
藤原は煙をくゆらせながら、笑いを浮かべた。 「して、どうする気だ?」 「処分する。の嫁が嗅ぎ回っているんだ。美智子もそれに巻き込まれている。証拠さえ残っていなければ、あいつらだって諦めるしかない」
「諦める?」 藤原の声の温度が、スッとがった。 吸い殻をアルミの皿に押し付けると、藤原は体をに乗りしてきた。 その目には、朝の話と同じ、底れぬ憎悪が宿っていた。
「あんた、本気でそんな寝言を言いにここまで来たのか?」 「藤原さん!」 「俺の元にある報にはな、あんたのサインがバッチリ残ってんだよ。『納期優先のため、クラッチ修理は来へ延期』ってな。あんたの丸っこい、独特の字でな」
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背筋に、たい氷を押し当てられたような覚がった。
「あれをシュレッダーにかけろってか? 冗談じゃねえ。あれはな、俺がいつかあんたに全部の責任を擦り付けられて豚箱に放り込まれそうになったのための、唯の防腐剤だ」 「責任を擦り付けるなんて、そんなことするわけないだろう!」 「するね。あんたはそういう男だ」
藤原は吐き捨てるように言った。 「いせよ、修。事故が起きたあの、病院の集治療ので、あんたは誠さんの親父さんに何て言った? 『現の判断で、作業員が勝に全バーをして作業していたようです』って、そう言ったんだよ」
「……っ」
「誠さんは麻酔で眠ってた。由紀さんは泣き崩れてた。その横で、あんたは現の責任者だった俺の目ので、平然と誠さんの過失を捏造したんだ。の労災保険の等級ががるのを恐れてな!」
藤原の唾が、私の頬にんだ。 拭うこともできない。 喉の奥が麻痺したように、声がなかった。
「俺はあの、あんたを殴り倒すべきだったんだ。だが、俺にもガキがいた。宅ローンがあった。が倒産すりゃに迷うから、あんたのついた嘘に相槌を打った。……その結果がこれだ」
藤原は両を広げ、ゴミだらけの畳を見回した。 「因果応報だよ。俺も、あんたもな。だがな、社。俺はもう失うもの配信用ねえんだよ。
は雀の涙、女には逃げられ、体はガタガタだ。