みかん小説
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"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第8話

私の呼吸が止まった。 指先から、サーッと血の気が引いていく。

「違う……あれは、当の残りを返そうとだな……」 「まだ嘘をつくのね」

美智子は、バッグから枚の鍵を取りした。 このの、鍵だった。 それを、玄関のシューズボックスのに、カツンと静かな音をてて置いた。

「由紀さんが私を壊したんじゃないわ、修さん」

美智子は、私の目をまっすぐに見据えて言った。 その声には、りも、涙も、未練すらも含まれていなかった。

「昨の夜、あなたが玄関先でついたあの嘘が。 そして今、あなたが私にねたその嘘が……私に、この決断をさせたのよ」

「美智子!」

叫ぶ私のを振り切り、美智子は軽トラックの助席へと歩をめた。 バタン、とドアが閉まるい音が、宅の暮に響き渡った。

玄関のドアが閉まる鈍い音が、静まり返った宅に響いた。

軽トラックの赤いテールランプが、曲がり角の向こうへ消えていく。 私はえ切ったアスファルトのにち尽くしたまま、くことができなかった。

喉の奥がカラカラに渇いている。 指先は氷のようにたいのに、の奥だけがカッカとい。

「……嘘だろ」

声にしてみても、何の反響もない。 築の建売宅。千百万の宅ローンを、あと残した私の。 その玄関ポーチのかりの、シューズボックスのに置かれた枚の鍵だけが、蛍灯のをく反射していた。

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美智子の鍵だ。

。 美智子は度も実に帰ったことすらなかった。 私がを倒産させ、自宅を放し、毎サラの督促に怯えていたあの獄のような期ですら、美智子はボロボロのエプロンを着て、私の隣で笑っていたはずだった。 『修さん、丈夫よ。きていれば、またやり直せるわ』 あの、えた麦茶を差ししてくれた震える。

それが、どうしてこうなる。

のに入ると、息が詰まるほどの沈黙が私を迎えた。 玄関のには、私の革靴がだけ。 美智子のスニーカーも、パート用のパンプスも、のに履く靴も、綺麗に消えていた。 駄箱の扉をけると、そこには私の靴だけが自然な隔を空けて並んでいる。

まるで、最初からこのに女などんでいなかったかのように。

リビングの気をつけた。 テーブルのには、昨夜こぼれたたいお茶の染みが、拭き取られないまま乾いて残っていた。 蔵庫のい唸り声だけが、部の隅で鳴り響いている。 キッチンにつと、ゴミの角コーナーは空っぽで、美智子がいつも使っていた柄のマグカップが消えていた。

本当に、てったのだ。

スマートフォンの画面を見る。 刻は午分。 いつもなら、美智子が夕飯の噌汁を温め直し、私がテレビのニュースを見ながら缶ビールをけているだ。

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そしてになれば、あの忌々しい言葉を言われていた。 『になったら、にて』

私はダイニングの子に崩れ落ち、を抱えた。 追いされることはもうない。 のに、私を邪魔者扱いするは誰もいない。 それなのに、胸の奥を鋭い錐でグリグリと抉られているような激痛が収まらなかった。

胃がキリキリと引き絞られる。 ポケットののスマートフォンを握りしめた。 由紀に叩き返された百万円の茶封筒が、ビジネスバッグので鉛のようにい。

美智子は、由紀から連絡を受けててった。 私がでを塞ごうとしたことに絶望して、を捨てたのだ。 ……待て。 逆だ。考えろ。 もし、由紀さえ余計なことを言わなければ。 もし、の事故の話を完全に終わらせることができれば。 美智子は戻ってくるはずだ。 のがある。妹のでをやせば、あの真面目な美智子のことだ、世体やこれからの活を考えて、必ず戻ってくる。

そのためには、まずあの男を黙らせなければならない。 朝、話で私を脅してきた男。 当ののすべてをる、唯のき残り。

私はちがり、着を脱ぐこともせず、再び夜ののへとびした。

藤原がんでいるのは、隣町のれにある築の都営団だった。 エレベーターのない暗い階段を、息を切らしながら階までがる。

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