"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第1話
「になったら、にて。までは絶対に戻らないで」
曜の夕、妻の美智子は洗ったばかりの平皿を布巾で拭きながら、顔もげずにそう言った。
最初は冗談だとった。 緒に暮らしてきて、そんな突拍子もない求をされたことなど度もなかった。
「……どういうことだ? って、もうすぐじゃないか」 「言葉通りのよ。だけでいいから、所のコンビニでも喫茶でもってを潰してきて」 「理由は?」 「聞かないで」
布巾を置いた美智子の指先が、わずかに張っていた。 線はシンクのステンレスに向けられたまま、度もこちらの目を見ようとしない。
「美智子、急にそんなこと言われて納得できるわけがないだろう。何かあるなら言えよ。誰か来るのか?」 「……分よ」
それだけだった。 声を荒らげるでもなく、っているでもない。ただ、完全にを削ぎ落としたのような声。 あのえ切った横顔に気圧され、私は財布とスマートフォンだけをポケットに突っ込み、追いされるように玄関をた。
の夜が、のカーディガンの隙から容赦なく体温を奪っていく。 宅の灯の、くあてもなく歩きながら、のはずっと混乱していた。
まさか、浮気か? 歳になる妻が。域のスーパーで週、パートの事務員として働き、休は所の協とドラッグストアを往復するだけのあの真面目な女が、夜のに男をに引き入れているとでもいうのか。
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馬鹿げている。そう打ち消そうとしても、度に浮かんだ疑は黒い染みのように広がっていった。
駅のファミリーレストランに入り、番いドリンクバーのボタンを押した。 温かいほうじ茶をすすりながら、スマートフォンの計を見つめる。 針がむのが異常に遅い。 分。分。 ちょうどにのインターホンを鳴らすと、美智子はいつも通りのエプロン姿で迎えた。 玄関のには、私の革靴と美智子のスニーカー以、何つ脱ぎ捨てられてはいない。 リビングに入っても、煙の匂いも、の気配もなかった。
「おかえりなさい」 美智子はそれだけ言って、すぐに呂へ消えた。 問い詰めようとした言葉は、喉の奥に張り付いたままてこなかった。
そのから、奇妙な追放は毎続いた。
曜も、曜も、曜も。 夕飯の片付けが終わるになると、美智子は無言で私のコートをクローゼットから取りし、ダイニングの子の背もたれに掛けるようになった。 それが「てけ」の図だった。
抵抗しなかったわけではない。 「いい加減にしろ。ここは私のでもあるんだぞ。なぜ夜に追いされなきゃならない」 曜の夜、コートを突っ返して鳴った。 だが美智子は、取り乱すどころか、ただ静かにリビングの計を見つめて呟いた。
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「お願いだから、これ以私を惨めにさせないで」
その言で、完全にが止まった。 惨め? なぜ追いされる側ではなく、追いす側の妻がそんな顔をするのか。 泣きしそうな、それでいてこちらを軽蔑しきったようなその瞳に、言いれぬ恐怖を覚えた。
私は結局、毎晩にをた。 あるはのでラジオを聴き、あるはコンビニのイートインコーナーでえた缶コーヒーを握りしめた。 歳、請けの械部品メーカーで課という名の窓際職。 かつては自分の会社を持っていた。従業員を数抱え、油と鉄にまみれながらも、自分の腕つで族を養っているという自負があった。 を畳んで。今は若い司にをげ、トラブルの処理に追われる々だ。 庭だけが、唯のらぎのだったはずなのに。
曜の朝、勤にリビングのローテーブルのに、見慣れない茶封筒が置かれているのを見つけた。 みのある封筒の表面には、几帳面な文字で何かの数字がりきされていた。 何気なくを伸ばした瞬、背から鋭い声がんだ。
「触らないで!」
洗濯物を抱えた美智子が、血相を変えてんできた。 私のから奪い取るように封筒を抱え込み、背に隠す。