"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第9話
このは、病気だから歪んだのではない。 自分の痛みを免罪符にして、のを貪りうことを、完全に正当化してしまっているのだ。 私が腎臓を差しせば、次は拓の養育費を求し、次は実の名義を寄こせと言いすだろう。 底のないバケツに、いくら血を注いでも満たされることはない。
「……そう」 私は静かに言った。 を切交えない、ただの事実の確認として。
「よく分かったわ」
私はバッグから、もう枚の類を取りした。 病院の所定用。 黒いボールペンで、私の署名と捺印がすでに済まされている。
『体腎提供取りげ申請』
用のタイトルを見た瞬、真理の息が止まった。 見かれた瞳が、信じられないというように見かれる。
「……な、に……それ……」
「ドナーの辞退届よ。今から、移植コーディネーターと倫理委員会に提してくる」
「嘘……嘘でしょ? お姉ちゃん、待って! 冗談よね!?」 真理の顔から、急速に傲さが消え失せ、本物の恐怖が張り付いた。 妹はベッドからを乗りし、点滴の管を引きちぎらんばかりの勢いでを伸ばしてきた。
「やめて! お願い、サインを取り消さないで! 私、んじゃう! 本当にんじゃうのよ!」
「なないわよ」 私はややかに言い放った。 「透析を続ければ、きられるわ。あなたが憎んでやまない、あの週回の治療を受け続ければ、命は繋がる」
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「嫌だ! あんなのき てるうちに入らない! お願いよお姉ちゃん、悪かったわ、全部私の嘘よ! 拓も放さない、あんたに迷惑もかけないから! だから腎臓をちょうだい! お願いだから私を助けて!!」
シーツので泣き叫び、をわせる妹。 その姿を見ろしながら、私は歩、ろへがった。
「真理。私はあなたの命のスペアじゃない。拓も、あなたの介護ロボットじゃないわ」
「お姉ちゃん!!」
私は踵を返した。 背から響く絶叫と、激しく鳴り響く輸液ポンプのアラーム音を背で聞きながら、病のいドアを引いた。
カチャリ、と錠がりる。 狂乱の声は、ドアの向こうに閉じ込められた。
廊を歩く私の取りは、迷いようがないほど真っ直ぐだった。 コーディネーターへ向かい、受付のカウンターに申請を置いた。
「佐藤由紀です。体腎の提供を、正式に取りげます」
職員の息を呑む音が聞こえたが、私は度と振り返らなかった。
病院をて、夕暮れのをに揺られた。 父が遺してくれた実に戻り、玄関の鍵をける。
静まり返ったの。 古いの匂いと、線の微かなり。 誰も私を鳴らない。誰も私から内臓を奪おうとしない。 ここは、私の聖域だった。
仏壇のに座り、さく息を吐いた。 の震えが、ようやく止まり始めていた。
これで、よかったのだ。
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妹を見殺しにするわけではない。真理には透析という医療の選択肢が残されている。 私は、自分と拓の尊厳を守るために、あの狂った共依の連鎖からりたのだ。
「お父さん……私、違ってないよね」
遺の父は、何も言わず、ただ静かに微笑んでいた。
キッチンへき、湯を沸かした。 温かいお茶をんで、今夜はのように眠ろう。 から、拓の活をどうやって政に繋ぐか、児童相談所や福祉事務所の窓を調べなければならない。 やるべきことは積みだったが、ののはれていた。
そのだった。
リビングのテーブルのに置いたスマートフォンが、甲い着信音を鳴らし始めた。
ビクッと肩がねた。 真理からか? それとも病院か? 恐る恐る画面を覗き込んだ。
表示されていたのは、登録のない局番の固定話の番号だった。 真理のむ区の、域番号。
迷った末、通話ボタンをスライドさせた。
「……はい、佐藤ですが」
話の向こうから、息を切らした女性の、切迫した声が響いてきた。
『夜分遅くに申し訳ありません! 私、拓君の通っている学で、スクールソーシャルワーカーをしております、川と申します!』
学? スクールソーシャルワーカー?
「あ……はい、伯母の由紀ですが、拓が何か……?」
『佐藤さん、落ち着いて聞いてください』 川と名乗る女性の声は、微かに震えていた。
『先ほど、拓君が舎の裏で倒れているのを巡回の教員が発見し、救急搬送されました。