"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第6話
『・・:透析導入。 朝の体測定必須(DW:ドライウェイト48.5kgを超えていたら即報告)。 朝:減塩パン1枚、温野菜(茹でこぼし必須、カリウム抜くこと!)。 分制限:500ml厳守(氷をに含ませて誤魔化す)。 帰宅予定18:30。迎えにくこと。血圧で転倒リスク』
『緊急連絡先: 透析クリニック代表 透析直通 夜当直携帯 シャント血の止血帯はテレビ台の引きし(絶対に臓よりく挙!)』
きの文字は、を追うごとに乱れ、圧がくなっていた。 蔵庫の横のホワイトボードには、赤字で殴りきされたメモが残っている。
『テスト期だけど、曜は病院。 限が終わったらる。 先には「庭の事」で通すこと。突っ込まれたら笑って誤魔化す』
喉の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
突っ込まれたら、笑って誤魔化す。 拓は、学でどんな顔をしてこのを過ごしていたのか。 友達が放課にファミレスへ寄り、部活で汗を流している。 この子は、母親のカリウム値と塩分濃度を計算し、って病院へ迎えにっていたのだ。
ベランダへのガラス戸に目をやった。 物干し竿に、数枚のシーツとタオルケットが干されていた。
づいて、言葉を失った。 洗剤の匂いに混ざって、茶く変した染みが点々と残っている。 シャントから吹きした血の跡だ。
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透析の針を刺す血管が破裂し、シーツを赤く染めた夜があったのだろう。 それを、拓がたいで、洗いで落とした痕跡が、繊維の毛羽ちから々しく伝わってきた。
台所に目を向けると、流し台にはさな計量スプーンと、デジタルスケールが置かれていた。 調料のラベルには、マジックできく数字がかれている。 『さじ1=塩分0.9g』 『しょうゆ=めて使うこと』
すべて、拓がやったことだ。
真理は私に何と言っていた? 「拓はがかからない良い子よ。男の子だけど、のことも自分で全部やってるみたい」
……嘘をつくな。 がかからないのではない。 をかける余裕を、母親が最初から奪い取っていたのだ。
リビングの隅、っぺらいカーテンで仕切られた拓の勉スペースに入った。 さなパイプ机のに、指導のプリントが裏返しに置かれていた。
表に返すと、公の志望調査票だった。 第志望の欄は、空欄のまま。 余に、青いペンでさく、何度も塗りつぶされた跡があった。
『から自転で10分以内』 『午からの授業がある定制?』 『母さんの透析の送迎ができる帯』
模試の成績表が挟まれていた。 判定は、全て「E」。 特記事項の欄に、担任の文字で赤ペンが入っていた。 『授業の居眠りが目ちます。遅刻・退が規定数を超えそうです。
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このままでは内申に響がます。度、保護者面談をさせてください』
保護者面談。 そんなもの、真理がけるはずもなかった。 そして拓も、母親を引っ張りすわけにはいかなかった。
「……何やってるのよ、真理」
声が震えて、乾いた部に落ちた。 これは介護ではない。 親が子供の首に巻きつけた、緩な絞首刑の縄だ。
病気だから? で育ててきたから? だからと言って、歳の子供の未来を、自分の命維持装置の部品にしていい理由になど、絶対になり得ない。
その、玄関のドアので、微かな音がした。
カチャリ、とポストのフタがく音がして、すぐにバタバタと階段を駆けりていく気配がした。
私は弾かれたように玄関へり、ドアをけた。 踊りを見ろすと、紺のウインドブレーカーの裾が、階段の踊りを曲がっていくのが見えた。
「拓!」
叫びながら、階段を駆けりた。
団の央にある、古びた児童公園。 錆びたジャングルジムのに、拓は膝を抱えて座り込んでいた。
たいコンクリートの縁に腰をろし、刻みに肩を震わせている。 フードを目に被り、両でを塞ぐようにして、さく縮こまっていた。
「拓」
名を呼ぶと、ビクッと体がねた。 顔をげた拓の目は、赤く腫れがり、隈が青黒く浮きていた。
「……おばさん」 掠れた声だった。 「なんで、ここにいるの……。僕、もう病院には戻らないよ。お母さんの顔、見たくない」
私は拓の隣に、ゆっくりと腰をろした。