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"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第2話

喉が渇いて痛かった。 けれど、声は驚くほど静だった。 「私が完全に納得しない限り、メスは入れさせません」

続きは械なほど迅速だった。 医師への連絡、術枠の解除、関係各所への保留通。 病院という巨な組織が、私の発した言によって、救命のカウントダウンをピタリと止めた。

だが、現実の反作用は、そんな静かなものでは済まなかった。

内科病棟のナースステーションに戻った瞬、鋭い切り声が廊に響き渡った。

「どういうことですか先!止って、何の違いなの!?」

パジャマ姿の妹、真理だった。 点滴スタンドを握りしめ、青い顔に血った目を浮かべて主治医に詰め寄っている。 腕には、の血液透析でボコボコに腫れがったシャントの痕が痛々しく波打っていた。

「真理」 私が声をかけると、妹は弾かれたように振り返った。 その顔を見た瞬、私は背筋が凍るような違を覚えた。

そこに浮かんでいたのは、命を救われるはずだった姉に対する戸惑いや謝の残滓ではなかった。 予定調のレールを狂わされた特の、純粋な苛ちとりだった。

「お姉ちゃん、どういうこと!?病院から急に、術を延期するって……あんた、何か言ったの?」 「私から、保留をお願いしたの」 私の言葉に、真理の息が止まった。

「……は?保留?何言ってんの?私の体、もう限界なんだよ!?次の透析でシャントが潰れたら、もう太ももから管を入れるしかないって言われてるの!ねってこと!?」

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廊を歩くの患者や見い客が、怯えたようにを止めてこちらを見ている。 普段なら、世体や周囲の目を異常なほど気にする真理が、目を憚らずに叫んでいた。

その、エレベーターホールの方から、おずおずと拓が姿を現した。 私の言いつけを守れず、母の叫び声に耐えかねてがってきてしまったのだろう。

真理の線が、拓を捉えた。 妹の眉がねがった。

「……あんたね」 真理の声が、く濁ったものに変わった。 「あんたが、お姉ちゃんに余計なこと吹き込んだんでしょ」

「お母さん、僕……」 「そうに決まってる!昨、引きしの鍵をけたからあんたの様子がおかしかった!何喋ったの!?ねえ!」

真理は点滴スタンドを引きずりながら、拓に向かって詰め寄った。 その剥きしの敵に、私は咄嗟に拓を背に隠した。

「やめなさい、真理!ここは病院よ!」 「退いてお姉ちゃん!この子の性根を叩き直さないと気が済まない!誰のおかげでここまできくなれたとってんの!?私が病気で苦しんでる横で、あんた……」

真理は血った目を拓に向け、信じられない言葉を吐き捨てた。

「そこまでして、母親にんでほしいわけ!?」

廊が、を打ったように静まり返った。 護師たちが慌てて駆け寄ってくる。

拓の顔から、完全に表が消えた。 まるで全の血液を瞬で抜かれたかのように真っになり、唇がカタカタと震えている。

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「……たく、み……?」 に返ったのか、真理が微かに怯えた声を漏らした。

だが、遅かった。 拓はく「あ」と掠れた声を漏らすと、弾かれたようにを翻し、非常階段へとりした。

「拓!待ちなさい!」 護師の制止を振り切り、階段を駆けりていく音がざかっていく。 真理はそのにへたり込み、点滴スタンドを倒して派な属音をてた。

私の元には、拓が背負っていたはずの、汚れた学の紺のリュックサックが転がっていた。 逃げる際、ベンチに置きりにしていったのだ。

病院の正面玄関をると、たいのが頬を打った。 私は敷の隅にある青いビニールベンチに座り、膝のに拓のリュックサックを置いた。

チャックをけると、活の匂いが溢れしてきた。 学のプリント、教科、そして番に入っていたのは、ボロボロになった学ノートだった。

ノートをいて、指が止まった。

そこには、几帳面な細かい文字で、々の記録がびっしりとき込まれていた。

『曜:透析、血圧85。除量2.4キロ。ちくらみあり。夕は減塩うどん(塩分1.2g計算)。 曜:学は限から。母のの攣りがひどい。ドラッグストアで湿布購入。 曜:透析。送迎。宿題は待でやる。

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