"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第1話
い非常階段の鉄扉が、背で鈍い音をてて閉まった。
「おばさん、お願いだから」
腕をく引かれた。 制の擦り切れた袖から伸びる、骨ばった細い。 歳になる甥、拓だった。
その指先は氷のようにたく、微かに刻みに震えている。 病院特の消毒液の匂いが混ざる暗い踊りで、拓は息を切らしながら私の目を見げていた。
「お母さんを、助けないで」
……は? 何を言っているのか、脳が即座に理解を拒んだ。
「何言ってるの、拓。あとで術なんだよ」 「助けちゃダメなんだ。お願いだから、同にサインしないで」 「拓」 「お母さん、元気になったら……僕を捨てる気なんだ」
喉の奥が、張り付いたように干からびた。 臓が肋骨の内側を、なリズムでく叩き始める。
元のトートバッグのには、数ヶに及ぶ検査と倫理委員会の面談を経て渡された、体腎移植の最終同が入っている。 そこに私の実印を押せば、曜の朝には麻酔を打たれ、私のの腎臓が妹の真理の腹部へと移植されるはずだった。
歳、独居、子供はいない。 に実の相続を巡って妹と決定な諍いを起こし、それきり音信通だった。 それでも半、真理の主治医から「このままでは血管アクセスが限界を迎え、余命に関わる」と連絡が入った、私は迷うことなくドナーの適性検査にを挙げた。
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過の確執なんてどうでもよかった。 妹にんでほしくなかった。 何より、女つで育てられている拓を、きりにさせるわけにはいかなかった。
それなのに。
「僕、見ちゃったんだ。お母さんの引きしのにあった類」 拓の声は掠れ、今にも泣きしそうに歪んでいた。 「お父さんの名がいてあった。僕をお父さんに渡すって……術が終わって退院したら、すぐに」
あの男の名。 に借と暴力汰を残して真理と拓を捨て、方をくらませた元夫の直。 なぜ今さら、あの男の名が妹の類にてくるのか。
「お母さん、ずっと僕に言ってた。『元気になったら、でしいアパートを探そうね』って。全部嘘だったんだ」 拓の目から、粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。 「僕、ずっとお母さんの透析の送り迎えも、事の塩分の計算も、全部やってきたのに……元気になったら、邪魔なんだ。僕、いらないんだよ」
の芯が、すっとたくなっていくのをじた。 りではない。 底の抜けた井戸を覗き込んでしまったような、理な悪寒だった。
私は拓の肩を掴んだ。 「拓、落ち着いて。その類、どこにあるの」 「病院の……お母さんの病の、鍵付きの引きしの。昨、保険証を探してって頼まれて、鍵をけたに……」
階段のから、護師の音が響いてくる。
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私はバッグの持ちをく握り直した。
「分かった。私が確かめる。だから拓、今は病に戻っちゃダメだ。階のロビーで座っていなさい」 「おばさん、術は……?」 「……私が決める。あなたに責任は背負わせない」
私は拓のをし、踊りの扉を押しけた。
本の体腎移植には、厳格なガイドラインがする。 ドナーの自発なが何よりも最優先され、たとえ術当の術台のであっても、ドナーは切の理由を告げることなく提供を拒否・撤回できる。 そして医療チームは、ドナーを守る義務がある。
私は病棟の奥にあるレシピエント移植コーディネーターのドアを叩いた。
「佐藤さん、どうされましたか?最終同の提は、の予定でしたが」 応対にてくれた女性コーディネーターに、私はを交えず、極めて平坦な声で告げた。
「理な揺がじました。自発の再確認が必です。曜の術予定を、度ストップしてください」
コーディネーターの表が瞬で引き締まった。 医療従事者として、この申しのを誰よりも理解している顔だった。 「……承しました。理由を詳しくお伺いしてもよろしいですか?もちろん、レシピエント側にはご本の希望による保留であること以、示いたしません」
「庭内で、確認しなければならないな問題が発しました。
私の体が、誰かの都の良い具にされている疑いがあります」