みかん小説
本棚

"娘を救った担任に、娘が叫んだ「信じるな」" 第6話

あの体育館での、娘の絶叫が脳裏に蘇る。

『あの先は、私がどうしていなくなったか、最初から全部ってたんだから!』

あれは告発ではなかったのか? 先の悪事を暴くための、正義の叫びではなかったのか?

違う。 もし、紗奈ちゃんの言ったことが本当なら。

結は、先に脅されていたのではない。 先と緒に、の女を獄に突き落とした共犯者だったのだ。

自宅に戻ったのは、空がみ始めた午だった。

玄関をけると、湿った気が淀んでいる。 私は濡れたトレンチコートをに脱ぎ捨て、で汚れた靴のまま、廊を突きんだ。

結の部のドアノブを掴む。 ガチャガチャと回すが、やはり鍵がかかっている。

「結」

く、押し殺した声で呼んだ。 返事はない。

「結! けなさい!」

ドンドンと、のひらでドアを激しく叩く。 のひらに鋭い痛みがるが、構わなかった。 臓が破裂しそうだった。の奥が真っに沸騰していた。

「けなさい! 栃にってきたわよ! 紗奈ちゃんに会ってきた!」

その瞬。 ドアの向こうで、息をむ気配がした。

数秒の沈黙の、カチャリとさな属音がして、鍵がいた。

ドアを押しける。 暗い部の、結はベッドの端に腰掛け、両で顔を覆ってさく丸まっていた。 カーテンの隙から差し込む青い朝のが、娘の細い肩を寒々しく照らしている。

広告

「……本当なの?」

私は部の央にち尽くし、震える声で問いかけた。 結は答えない。ただ、指の隙からポタポタと涙をシーツに零している。

「紗奈ちゃんが言ったことは、本当なの!? あなたが……あなたが先と緒になって、紗奈ちゃんを犯に仕てげたの!?」

「……違う」

蚊の鳴くような、掠れた声だった。

「何が違うの! 説しなさい!」

「違わない……! 違わないけど……っ!」

結が突然、顔をねげた。 その顔は涙とでぐしゃぐしゃに汚れ、目は真っ赤に充血していた。

「私、あんなことになるなんてわなかったの! 最初は……最初はみんなで見てただけなの! さんが、裏アカでクラスの悪いてるって、誰かがグループチャットに貼って……!」

喉の奥がヒリヒリと焼けるように痛む。 現実が、歩ずつ、確実に私の首を絞めにやってくる。

「私も、紗奈ちゃんも、『ひどいね』って返信しただけ……! なのに、さんの親が鳴り込んできて、ごとになって……!」

「それで!? なんで紗奈ちゃんに押し付けたのよ!」

「先が!」

結が叫んだ。 喉を引き裂くような、痛な叫びだった。

「藤原先が言ったの! 『さん、あなたのお母さんは朝から晩までパートを掛け持ちして、あなたを私のに入れるために必でおを貯めているのよ』って!」

息が止まった。 胸の奥を、たい刃物で抉られたような衝撃がる。

広告

「『ここであなたの名がたら、推薦も取り消される。お母さんはどううかしら。今まであなたのために捧げてきたを、全部裏切ることになるのよ』って……!」

私の。 私が娘のために注いできた苦労。 それが、娘を脅迫するための凶器として使われていた。

「先が……先がメモをくれたの。『この通りに喋りなさい』って。紗奈ちゃんがでスクショを撮って、で送信したって……そう言えば、全部丸く収まるからって……!」

「そのメモは!? 今どこにあるの!?」

私の問いに、結は怯えたように目を泳がせ、部の隅に置かれた通学鞄を指差した。

私は鞄にびつき、底板を引っ剥がした。 埃と消しゴムのカスにまみれたプラスチックの板の裏に、つ折りにされた枚の黄い付箋が、セロハンテープで貼り付けられていた。

剥がし取り、震える指でく。

そこには、見慣れた藤原先の、几帳面で美しい跡が並んでいた。

『さん: 面談では「放課、教で林さんがでスマホを操作しているのを見た」で統すること。 余計な推測や、のの名は絶対にさない。 あなたとお母さんの活を守るためです。 読んだら破棄しなさい』

文字の最、さく引かれたアンダーラインが、酷な現実を証していた。

私はその付箋を握りしめ、膝から崩れ落ちた。

指先がたく痺れていく。

これは、教育ではない。 ただの保だ。 学の平穏を守り、自分の指導実績に傷をつけないために、最も御しやすい母子庭の徒を懐け、もうの徒を切り捨てたのだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: