みかん小説
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"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第32話

莉子の瞳が激しく揺れいた。

「……私は?」

「莉子は……このおに残るの。お父さんと緒に」

その瞬、莉子の顔がぐしゃりと崩れた。

「私だけ……置いていくの……?」

裏返った、痛な叫び声だった。

のあのの夜、玄関で私のスカートを握りしめていた歳の女の子の顔が、歳になった今の顔のに、そのままなって現れていた。

「違うの、莉子」

私は莉子のさな両を、包み込むように握りしめた。

「あなたを嫌いになったから置いていくんじゃないの。お母さんにはね……法律ので、あなたを勝に連れてく権利がないの」

「……権利……?」

「法律のでは、お母さんは莉子の本当のお母さんじゃないの。莉子をんでくれた別のがいて、お母さんはそのの代わりに、あなたを切に育ててきたの。でも、役所の類のでは、莉子はお父さんの子供で、お母さんの子供ではないの。だから、お母さんが勝にあなたを別のへ連れてくことは、法律で許されていないのよ」

莉子はポロポロと粒の涙をこぼし始めた。

声をてずに、ただ涙だけを流し続ける。あのの夜と、まったく同じ泣き方だった。

「今度はね、お父さんが、あなたのお父さんとしての役割をちゃんと果たす番なの。おばあちゃんも、たくさん伝ってくれるわ。そしてお母さんは、毎週末、必ずあなたに会いに来る。

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学のことも、唱団のことも、ぜんぶ聞かせてね」

莉子はしばらくの、俯いて涙を拭っていた。

やがての甲でゴシゴシと目を擦り、ぽつりと言った。

「……私、転したくない」

「ええ」

「咲ちゃんもいるし……唱団も続けたいし……それに、おばあちゃんがね……」

莉子はそこで言葉を切り、私を見つめた。

「今、唱団の帰りに、咲ちゃんのおのでおばあちゃんとすれ違ったの。……おばあちゃん、私を見て、初めてを振ってくれたの。優しく、笑ってくれたの」

私は息を呑んだ。

義母が「をやす」と言ってがをてった直のことだったのだ。

「だから……私、ここに残る」

莉子は気丈に言った。

「莉子がきくなって、自分で物事を決められる齢になったら、そのはどこで誰と暮らすか、莉子自が決めていいのよ。それまで、お母さんはずっとあなたの方だから」

莉子はこくりと頷いた。

そして、私の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、はっきりと言った。

「……でも、私のお母さんは、世界でたった、お母さんだけだよ」

その言葉を聞いた瞬、私はこの初めて、声をげて泣いた。

「……私もよ。私も、ずっとそうっているわ」

莉子が私の首に、細い両腕を回してきた。

、私のスカートの裾を掴むのがやっとだったさなが、いま、私の首のろでしっかりと結ばれていた。

私はその温かな背をく抱きしめながら、この子のこれまでのと、これからの未来のすべてを、神様に祈るように抱きしめ続けた。

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その夜、夫はリビングのソファにで座り込んでいた。テレビは消えたままだった。

私は台所で計簿をいた。

の欄には、あまりにもくの来事がありすぎて、ただ付だけをペンで記して静かに閉じた。

駅の向こう側に、目をつけてあった部の賃貸アパートがあった。

週の。

の民会館のホールで、女唱団の定期発表会が催された。

私とと公平のは、最列の席に並んで座った。

客席の方のれた席に、義母の節子がで座っているのが見えた。

台の幕ががり、ソプラノの最列の央にった莉子が、誰よりもきくをいて、澄み渡るような声を響かせていた。

演奏が終わり、拍がホールを包む、義母が私の方を振り返り、々とさくをげた。私は静かに会釈だけを返した。

「莉子が番、がでかかったな」

公平が笑い、が嬉しそうに頷いていた。

その週、私と息子は、駅の向こうのアパートへと荷物を運びし、しい活をスタートさせた。

、婚届が正式に受理された。

の協議の末、元夫は向井弁護士が提示した婚協議の条件をすべて丸呑みし、署名・捺印していた。

夫婦の共財産であった預貯百万円は、財産分与として百万円ずつ公平に分割された。

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