"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第19話
その夜、帰宅した夫が着を脱いで呂へと消えた。
呂からがってきた夫に、私はお茶を差ししながら、何気ない調子で尋ねてみた。
「そういえば、の最の曜も、倉庫の棚卸しのお仕事でしたよね?」
「……あ? そうだよ。なんだよ急に」
「莉子の学の運会の振替休がその週にあったから、お休みがえばどこかかけられたのかなとって」
「うわけないだろ! 俺は仕事で忙しいんだよ!」
夫は忌々しそうに吐き捨て、階へとがっていった。
私は台所で計簿をき、余にペンをらせた。
『。夫、の宿泊について「棚卸しの仕事だった」と虚偽の主張』
これ以の追及は切しなかった。問い詰めれば、あの内ポケットの領収は今夜のうちにゴミ箱かシュレッダーのに消えてしまうからだ。
翌の曜、職の休憩で、杉本さんが私の隣に腰をろした。
「向井先と、ちゃんと会えた?」
「はい。先から、々の言の記録を残すようにとご指示をいただきました」
「残してる?」
「はい、毎欠かさず」
杉本さんは持参したタッパーのフタをけながら、力く頷いた。
「記録っていうのはね、集めているは何の役にもたない屑のようにえるものなのよ。でもね、いざそれを机のに叩きつけるが来たら、そのまでじっと黙って耐えてきたの分だけ、相を叩き潰すみになるの。
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私、そういう修羅を嫌というほど見てきたから、違いないわよ」
私は箸を止め、杉本さんの横顔を見つめた。
「杉本さん……私、違っていませんよね?」
杉本さんは箸を止め、私の目を真っ直ぐに見据えて言った。
「もしあなたが違ったを選んでるなら、向井先が最初の面談の点で止めてるわよ。先が背を押してくれたなら、堂々と胸を張りなさい」
そのの夜過ぎ。
滅に鳴ることのないがの固定話のベルが、けたたましく鳴り響いた。
台所で洗い物をしていた私よりもく、リビングにいた公平が受話器を取った。
「はい、瀬です。……父はまだ仕事でています。どちら様でしょうか?」
公平の部活仕込みのハキハキとした声が、突然途切れた。
私は蛇を止め、振り返った。受話器を握ったままの公平が、血の気の引いた顔でこちらを凝していた。
「……母さん」
公平はおずおずと受話器を差ししてきた。
「女の……『お父さんいますか』って。それから……『莉子ちゃん、元気?』って……」
私は濡れたをエプロンで拭い、受話器を受け取った。
「もしもし、瀬です」
返事はなかった。
受話器の向こうから、浅い呼吸の音だけが秒ほど聞こえ、直にツーツーと無質な切断音が響いた。
私は受話器をフックに戻した。
「……誰だったの?」
公平がそうな目で私を見つめていた。
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「違い話よ」
「違い話の相が、莉子の名をってるわけないだろ!」
公平は今で歳。の嘘や誤魔化しを敏に察する齢になっていた。
「唱団の保護者の方かもしれないわ」
「父さんに用があって、莉子の名をってて……父さんに用があるなら、普通は父さんの携帯にかけるだろ!」
公平はそう言い捨て、唇をく噛み締めて黙り込んだ。納得した表ではなかったが、それ以私を問い詰めることはしなかった。
ふと線をげると、廊のに呂がりの莉子が佇んでいた。濡れた髪から、滴がポタポタとに落ちていた。
「……お母さん、私のことってるだったの?」
「ううん、ただの違い話よ。気にしなくていいからね」
莉子は「……うん」とさく答え、階へとがっていった。
つ目の嘘だった。
台所に戻った私は、流しのステンレスの縁に両をつき、荒くなる呼吸を懸命にえた。
あの声は、違いなく覚えていた。
の、受話器越しに妊娠の週数を事務に告げてきた、あの野島マキの声だった。
なぜ今になって、あの子の名をにするのか。
、度たりとも連絡を寄こさず、娘の顔すら見ようとしなかった女が、今さら母親面をして引き取る気になったというのか。それとも、もっと別の悪があるのか。
背筋に、氷のような気がいがってくるのをじていた。