"娘を押し付けた夫、九年目の誤算" 第10話
翌、私は裏切られた苦しみに耐えかね、義母のへとを運んだ。夫が泣き崩れて座したこと、相の女の名が野島マキであることのすべてを伝えた。ただ、夫に泣きつかれた通り、相が妊娠しているという事実だけは伏せておいた。
義母は私にお茶を淹れて差しし、眉つかさずに然と言い放った。
「男の遊びじゃないの。秀はもう度と会わないって誓ったんでしょう? も公平もまださいのよ。ここで母親のあんたが耐えなくて、どうするっていうのよ」
私は耐えた。耐えることしかできなかった。
幼いと公平の無邪気な顔を見つめているうちに、母親である私がすべてをみ込んで耐える以の選択肢を見せなかったのだ。
今振り返れば、よく分かる。
あの、私が信じたのは夫の反省の涙などではなかった。義母の無責任な慰めでもなかった。
歳のしがない主婦が、歳と歳の子供を抱えてをびしたところで、翌からどうやってご飯をべさせていけばいいのか、その具体な答えを持っていなかっただけなのだ。
は、むべきが見つからない絶望の袋に追い詰められた、その逃げのない妥協を「許し」という都のいい言葉で呼び換えてしまうのだ。
夫はそれ以、女とは会わなくなった――なくとも、表面はそう見えていた。
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だが、そのの。野島マキは、夫の子供を無事に産した。
夫はその事実を私に隠しきれず、再び私ので々とをげた。
「役所に認届だけはさせてくれ。俺の血を引いた子供なんだ。あの子に罪はない。養育費は俺の遣いを削って捻する。おには円たりとも迷惑はかけないから」
私はその勝な懇願に、ただ力なく頷くことしかできなかった。
「あの子に罪はない」という正論を振りかざされた、妻である私には、それを拒絶する言葉が見つからなかった。
そのから、夫の遣いは万円増額された。計簿にはただ「夫遣い」とだけき続けた。その万円が、のどこかで暮らす見らぬ母子の何に消えているのか、私は考えないようにして、毎千円札を枚、封筒に詰め続けた。
それからが過ぎた。私はその女児の顔をることもなく、息を潜めるように暮らしていた。
そしての。梅のれの曜の夕暮れ。
夫が突然、さな女の子のを引いてがの玄関ドアをけたのだ。
叩きのには、見慣れないさな赤い子供靴が、脱ぎ捨てられた。その隣には、のついた夫の革靴。
「……マキが、もう育てられないってさ」
夫は玄関のがりにったまま、気まずそうに目を泳がせて言った。
「アパートに置きりにされた。
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施設に送るか、うちで引き取るか、どっちかしかない」
その女の子は、歳をし過ぎたばかりだった。
男の子のようにく切られた髪に、体に見わない巨なリュックサックを背負ったまま、そうに玄関にち尽くしていた。
私がわずそのに膝をついてしゃがみ込むと、女の子はさなで私のエプロンの裾をぎゅっと握りしめ、濡れた瞳で私を見げて言った。
「……ママ」
私は、そのさなを振り払うことができなかった。
その夜、莉子は私の布団に入り、付が変わる頃まで声を押し殺して静かに泣き続けた。歳の幼児が、声をてずに泣く姿を、私はその夜初めて目にした。
当歳だったと歳だった公平が、廊の隙から恐る恐る寝を覗き込んでいた。
「妹?」と公平が尋ね、「たぶん」とが答えた。はそれ以、何も詮索しようとはしなかった。
翌朝の卓で、公平は自分のパンをちぎって莉子の皿のに置き、は自分のジュースを莉子のコップに注いでやっていた。
あの、を振り払ってから追いせばよかったと悔したことは、そのので度もなかった。
ただ、あの玄関先で私の膝が崩れ落ちたのは、聖母のような無償のや優しさからではなかった。
この子は、あののに私が耐え忍んだことに対する、神様からの残酷な答えわせなのだ。
そうったからだ。