"深夜1時、母は開けるなと言った" 第14話
「母さん、ご飯買ってきたよ」 声をかけても、母はすぐには反応しなかった。 秒ほど経ってから、ゆっくりと首をこちらへ巡らせた。その顔は、昨よりもさらに痩せこけ、頬の肉が落ちていた。
「……千」 母の声はかすれていた。
「あの方から、さっき、の話に連絡があったわ」
私のが止まった。 「話……? たの?」 「留守番話にね、メッセージが入っていたの」
母は話を指差した。 留守のランプが赤く点滅している。私は録音再ボタンを押した。 ピッと子音が鳴り、ノイズ混じりのスピーカーから、あの落ち着き払った声が流れした。
『佐伯です。さん、政士の方から速達で通が届きましたわ。ずいぶん際がいいこと。千さんがいてくださったのね』
玲子の息遣いが、受話器の向こうから漏れ聞こえる。
『私の類を返してくださったことには謝します。ですが、これでおしまいだとはわないで。私は切れを返してほしかっただけじゃないの。あなたが、自分のしたことをそので認めるまで、私は諦めません。……今夜、伺います。逃げられるとわないでね』
ブツリと通話が切れた。 部のを、針が落ちても聞こえるような静寂が支配した。
母はこたつので、両で自分のを塞ぐようにしてさくなっていた。 「来るわ……また来る。警察なんて呼んだら、あの、所に言いふらすわよ。
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お父さんが何をしたか、私が何をしたか……回覧板も回せなくなる、ゴミしにもけなくなる……!」
「母さん」 私は母のに膝をついた。
「所の目を気にして、またあのをに入れるの? 茶をして、ケーキをして、許してくださいってをげるの? そんなことしても、あのは満しないよ」 「じゃあ、どうしろって言うのよ!」
母が叫んだ。 その目には、再びあの狂気を孕んだ涙が溢れていた。
「私が悪かったのよ! 私が全部悪かったの! だから、あのの言う通りに謝って、おでも何でも渡して、それで済むならそうしたいのよ! あんたには関係ないでしょう! 私の問題なんだから、邪魔しないで!」
私はポケットから、あの緑のメモ用を取りした。 そして、それを母の目の、こたつの板のに叩きつけた。
「関係ない? これが、母さんの言う『関係ない』なの?」
母の線が、メモ用に落ちた。 緑の、鳥のイラスト。そして、そのにかれた自分の跡。 その瞬、母の呼吸が完全に止まった。
顔から気に血の気が引き、唇が青ざめていく。 母の瞳孔が恐怖で見かれ、喉からヒッ、と引きつった音が漏れた。
「……これ……どこで……」 「お父さんの庫の底だよ。佐伯玲子さんが母さんに宛てた、のの裏にクリップで留めてあった」
私の声は、く、自分でも恐ろしいほどえ切っていた。
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「母さん。母さんはあのが怖くて震えてるんじゃない。 あのが、このメモを私に見せるのが怖くて、必になってたんでしょう。 自分が昔、助けを求めてきた女のを売って、お父さんに差ししたっていう事実を、娘の私にられるのがぬほど怖かったから……だから、あのの言いなりになって、夜でも鍵をけて招き入れてたんでしょう!」
母は言葉を失っていた。 を魚のようにパクパクとかすが、声にならない空気の塊が漏れるだけだった。 、良妻賢母の仮面を被り、慎ましく控えめな主婦を演じ続けてきた子というの、最も醜悪で、最も卑怯な核が、のに晒されていた。
「違う……」 母は震える指先で、メモ用を掴もうとした。 「違うの、千……あれは……お父さんが、恐ろしかったから……」
「お父さんが怖かったら、を代わりに差ししていいの?」
母の指が止まった。 私はちがり、母を見ろした。
「母さんは、被害者なんかじゃないよ。 お父さんの暴力を止められなかった者かもしれないけれど、その暴力をに押し付けて見殺しにした、派な共犯者だよ」
母はこたつに突っ伏し、獣のような唸り声をげて泣き崩れた。 もはや言い訳の言葉すら紡げず、ただただ、を爪で引っ掻くようにして震えていた。
私はその背から目を逸らし、計を見げた。
午分。 夜は、これからだった。