"深夜1時、母は開けるなと言った" 第12話
と恫されたこと。 そして最には、同じ女性として、どうか夫を止めてほしい、警察に突きすに、奥様ので夫の暴を終わらせてほしいという、血を吐くような懇願が綴られていた。
だが、私の目を釘付けにしたのは、そのの文面ではなかった。
便箋の最のページの裏側に、クリップで枚のさなメモ用が留められていた。 緑の、鳥のイラストが入ったファンシーなメモ帳の切れ端。
母が、所のへの伝言や、私の弁当箱に添えるによく使っていた、あの見慣れたメモ用だった。
そこに、母のあの丸っこく、几帳面で、どこか幼さの残る跡で、こうかれていた。
『お父さんへ。 このからまた、気の悪いが届きました。 私には関係のないことですし、ご所や庭に響がると困ります。 お父さんのほうで、度とうちにこんなものが届かないよう、適切に処分してください』
息が、止まった。
界が激しく滅し、胃の底からいものが逆流してきそうになった。
母は、を無したのではなかった。 助けを求める被害者のを、あろうことか、加害者である夫のに直接渡したのだ。
『適切に処分してください』。 その言が、玲子にどれほどの絶望をもたらしたか。 助けを求めた相によって、退を断たれ、告発の証拠そのものを暴君のに握らされたのだ。
広告
父がこのメモを見た、玲子に対してどれほど苛烈な報復と恫を加えたか、像するだけで吐き気がした。
母は、共犯者どころではなかった。 玲子を獄の底へと突き落とした、最初の引きを引いた張本だったのだ。
「……あ」
乾いた声が、私のから漏れた。
母が恐れていたのは、玲子ではなかった。 父の犯罪でもなかった。
このメモのだったのだ。 自分が、庭の寧と世体を守るためだけに、見ずらずの女性の鳴をゴミのように踏みにじり、夫の暴力へと差ししたという、その決定な証拠。
それが、玲子のに渡ること。 そして何より、娘である私にられること。 その点だけを恐れて、母は今も震え、嘘をね、夜のに脅え続けていたのだ。
階段のから、ギシ、とがきしむ音が聞こえた。
私はメモとをコートのポケットにねじ込み、息を殺して斎をた。 階段のすりから、暗い階の廊を見ろす。
寝から抜けした母が、廊にっていた。 パジャマ姿のまま、靴も履かずに、え切った板張りののにち尽くしている。
母は、玄関ドアのにいた。 そして、しく付け替えたばかりのつの鍵のサムターンにをかけ、カチャリ、カチャリと、解錠の方向へ回していた。
「母さん……?」
私の声に、母はゆっくりと振り返った。
広告
その瞳には、が宿っていなかった。遊病者のように焦点がわず、唇だけがさく、呪文のようにいていた。
「……けておかないと」
母は呟いた。
「けておかないと、また叩かれるわ。……鍵をかけるから、るのよ。あのは、鍵をかけると、ってドアを壊そうとするのよ……」
母が見ているのは、佐伯玲子なのか。 それとも、かつてこので声を撒き散らしていた、んだ父の霊なのか。
母は解錠されたドアノブにをかけ、ゆっくりと、のたいの夜に向かって押しけようとしていた。
午までは、まだ以あった。 だが、こののは、内側から、母のによって、すでに音もなくき始めていた。
私は階段を駆けりた。
裏にたい羽目板の触が突き刺さるのも構わず、玄関ホールの気のへび込み、ドアノブに伸びていた母の細い首を横から掴み取った。
「母さん、やめて!」
母の腕を力任せに引き戻すと同に、私はもう方ので玄関ドアを押し戻し、錠されていたつのサムターンを乱暴に回した。 ガチャン、ガチャンと、属が噛みって扉を塞ぐい音が、狭い玄関に響き渡った。のためにドアガードの真鍮のアームも掛けに滑り込ませる。
母は抵抗する力もなく、の框に尻餅をついた。 素のままたいリノリウムのに投げされた両が、の寒さで赤黒く張っている。
母は胸ので両を固く組みわせ、まるで叱責を待つ子どものように肩をすくめていた。