"深夜1時、母は開けるなと言った" 第11話
『経緯説』と題されたそのの冒には、震える文字でこうかれていた。
『私、子は、平成に夫・昭男が佐伯玲子様に対してった法侵入及び退職の事実を、当より把握しておりました。しかし私は庭の保全を優先し、佐伯様からの救済の訴えを破棄し——』
途で文章は途切れ、激しい圧で引っかかれたような跡が残っていた。
「母さん、これ……」
「けないのよ……」 母は私の腕に縋り付き、しゃくりげるように泣き始めた。
「ここまでいたけれど……が震えて、これ以けないの……。そうしたら、あの、部からりてきて……『全部くまで、部にはげない』って……『き終えないなら、今夜もにく。今度は所に聞こえる声で、おの旦が何をしたか、おが何をしたか叫んでやる』って……!」
私はを見げた。
アパートの階。階段の踊りの先にある、201号。 曇りガラスの窓の隙から、いレースのカーテン越しに、がっていた。 部のかりは点いていない。 完全なのから、鏡のフレームだけが灯のを反射して、たくっていた。
佐伯玲子は、傘も差さずにのに座り込む私たち母娘を、微だにせず、ただ無言で見ろしていた。
りでも、嘲笑でもない。 まるで、実験のシャーレので蠢く害虫の反応を確かめるような、絶対な観察者の線だった。
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「……帰るよ、母さん」 私は歯をいしばり、母の濡れた体を引に抱き起こした。
母は腰が抜けたように崩れ落ちそうになりながら、私の肩に縋り付いた。 元に落ちたワインレッドの傘と、に溶けていく原稿用を拾いげる気力すら、私には残っていなかった。
タクシーを拾い、実へ連れ帰った、私は母をすぐに呂へ押し込んだ。 震えが止まらない母のを脱がせ、いシャワーを浴びせ、パジャマを着せて布団に潜り込ませた。邪薬と湯をませると、母は疲労と恐怖の極致にあったのか、のように眠りに落ちていった。
寝のドアを閉め、暗い廊にった、計の針は午半を回っていた。
のは静まり返っていたが、その静寂はもはやらぎではなかった。 母のあの病な従順さ。恐怖に怯えながらも、相の求に唯々諾々と従い、自らのへと向いて許しを請おうとするあの姿。
あれは、単なる脅迫の被害者の態度ではない。 佐伯玲子は言っていた。 『お母様は、あなたには何も話していないでしょう?』
母はまだ、何かを隠している。 玲子をここまで頑なにし、母をここまで卑屈に屈させている、決定な「何か」がまだあるはずだ。
私は音を忍ばせ、階へとがった。 父が使っていた斎のドアをける。
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はカビと古いタバコの臭いが淀んでいた。
壁際に置かれたきなスチール製の棚の脇に、父が最まで鍵をかけていた古い耐庫があった。 父の急、遺産確認のために鍵とダイヤル番号はすでに調べてあった。私は庫のに膝をつき、いダイヤルを回した。
カチ、カチ、と属の爪が落ちる音が、静まり返った部に響く。 レバーを押しげると、な扉が軋んだ音をてていた。
には、実印や権利証、いくつかの預通帳が入っていた。 それらを退けた番奥に、古びた茶封筒が束、ビニール紐で縛られて押し込まれていた。
紐を解き、を改める。 タカハシ・エステートの裏帳簿、従業員の個報がかれたファイル。そして、そのファイルの底から、通のい封筒がてきた。
以の、郵便局の消印が押された定形郵便だった。 宛名には、達なペン字でこう記されていた。
『子様 親展』
差の欄には、『佐伯玲子』とあった。
私の指先が、微かに震えた。 封筒の封は、のあの、すでにハサミで綺麗に封されていた。 から引きしたのは、便箋枚にわたる、几帳面な文字で埋め尽くされただった。
そこには、玲子がファミレスで語った通りの獄が記されていた。 夜に鍵を使って部に侵入された形跡があること。
着の位置が変えられていたこと。会社できりになった際、体を触られ、拒絶すると「クビにするぞ、このできていけなくしてやる」