"深夜1時、母は開けるなと言った" 第6話
「ええ。千さんですね。どうぞ、お掛けになって」
促されるまま、私は向かいのビニールレザーのシートに腰をろした。荷物を膝のに抱え込み、防するように背筋を伸ばす。
「ご注文は? ドリンクバーでも取っていらしたら」 「結構です。に済ませたいので」
私がい声で拒絶すると、佐伯玲子はく微笑んだ。侮蔑ではなく、若いの頑なさを観察するような笑みだった。
「お父様に、目元がよく似ていらっしゃる」
その言に、私の臓がねた。 「父のことを、ごなんですね」
「ええ。よくっていますわ。、お父様が経営されていた産管理会社で、私、事務員として働いておりましたから」
佐伯玲子は帳をき、そのからラミネート加された枚のカードを取りして、テーブルの央に滑らせた。 そこには、のし若い彼女の顔写真と、『限会社タカハシ・エステート 総務部 佐伯玲子』という文字が印刷されていた。タカハシ・エステート。違いなく、父が松戸駅で細々と経営していた、あのさな会社の名だった。
「父の……社員だったんですか」 「社員というよりは、都のいい雑用係でしたけれどね」
佐伯玲子は淡々と言った。 「お父様は、典型なワンマン経営者でした。自分のに沿わないには声を浴びせ、気に入ったには距を無して踏み込んでくる。
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特に、当夫と婚したばかりで寄りのなかった私のような女は、格好の標でしたのよ」
彼女の声には、りも怨嗟も籠もっていなかった。それがかえって、語られる内容の異常さを際たせていた。
「お父様はね、私の借りていたアパートの管理も請け負っていらしたの。だから、鍵をお持ちだった。私が会社を休んだ、あるいは残業で遅くなった夜、お父様が私の留守の部に、その鍵を使って勝に入り込んでいたことがありました」
私の背筋が、気に凍りついた。 「……そんなこと、あるわけが……」
「ありましたよ。度や度ではありません」 佐伯玲子は鞄から、茶封筒を取りした。から引きされたのは、数枚の古びた類のコピーだった。警察への被害相談の記録票と、当の鍵交換の領収、そして父の独特の丸っこい跡でかれた、支滅裂な内容のメモだった。
『佐伯さんへ。部の換気扇の調子が悪そうだったから見ておいた。今度の曜、事にでもこう』
父の字だった。違いなく、あの居丈で、庭内でも絶対君主として振るっていた父の跡だった。
「私は警察にも相談しました。でも、当の警察は内同然の職トラブル、男女のもつれとしてしか扱ってくれなかった。お父様は『管理業務の環だ』と言い張り、私を解雇すると脅し、退職もさないと言って追い詰めてきた。
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私の部のクローゼットや、着の引きしまでけられていたのに」
内の賑やかなBGMが、まるでい世界の来事のようにのいていく。 私は目のの類から目をせなかった。 父が横暴なだったことはっている。母を鳴りつけ、私に対しても常に圧だった。だが、の部に鍵を使って侵入するような、そんな卑劣な犯罪者だったというのか。
「……でも」 私は震える声で搾りした。 「父は、にました。先週、急に全で。もしそれが本当だとしても、父はもういない。どうして今になって母のところに来るんですか。母は関係ないでしょう!」
佐伯玲子は、カップにをつけ、ゆっくりと茶をみ干した。 そして、カップをソーサーに戻すと、カチリとい音をてて私を真っ直ぐに見つめた。
「関係ない? 本気でそうっていらっしゃるの?」
その瞳の奥に、初めて徹なが宿った。
「私はね、お父様に部を荒らされた直、お母様にをしたのよ。ご自宅のポストに、直接投函したわ。お父様がしていることをすべていて、奥様から止めてほしいと、どうか助けてほしいと縋ったの。女性として、同じ妻のとして、理解していただけるとったから」
喉の奥がカラカラに渇いて、言葉がなかった。
「お母様はね、っていたのよ。最初から、全部」
佐伯玲子はを乗りし、私に囁くように言った。