みかん小説
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"深夜1時、母は開けるなと言った" 第5話

そのの震えは止まらず、いまにも価なカップを取り落として割りそうだった。

私はこれ以、母と言葉を交わすことが能であることを悟った。 母は壊れかけている。あるいは、最初から何かの共犯者として、完全に追い詰められているのだ。

私はリビングのダイニングテーブルに線をらせた。 レースのテーブルクロスの端、普段は父の老鏡が置かれていた製のペントレイの脇に、つ折りにされたナプキンが挟み込まれているのが目に入った。母が慌てて片付け忘れたものらしかった。

私は無言で歩み寄り、そのナプキンを抜き取った。 母が「あッ」とい鳴をげて振り返ったが、私がそれを広げる方がかった。

ファミリーレストランのロゴが入ったナプキンには、几帳面で鋭利なペンの跡で、話番号と、い文章が記されていた。

『佐伯玲子。 逃げても無駄です。の夜、また伺います。 千さんにお話ししてもよろしいのですよ』

その文字を網膜に焼き付けた瞬、私ので何かがぷつりと切れた。

私はナプキンをポケットにねじ込むと、スマートフォンを掴んで玄関へと向かった。 「千! どこへくの! 千!」

母が濡れたのまま、狂ったように私の腕に縋り付いてきた。 「かないで! 誰にも会わないで! あんたがる必なんてないの! 頼むから、お母さんの言うことを聞いて!」

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その顔は、娘を守ろうとする母親の顔ではなかった。 自分の犯した罪や、隠し通したい恥部を暴かれまいと必になる、みじめな罪の顔だった。

「して」 私は酷な声で母のを振り払った。 「母さんが話さないなら、私があのから直接聞く」

玄関のドアをけ、背で泣き叫ぶ母の声を締めすように、私はしく付け替えたばかりの頑丈なドアを力任せに叩き閉めた。

の空気は刺すようにたかった。 私は宅の坂をでりながら、ポケットから取りしたナプキンの話番号を、スマートフォンの画面に打ち込んだ。 呼びし音は、回も鳴らなかった。

『はい。佐伯です』

昨夜、ドア越しに聞いたのと寸分違わぬ、あのく平坦な女の声が元に響いた。

「……昨夜、私の実に来た方ですね。千です」 私は努めて平静を装いながら言った。

話の向こうで、微かに擦れの音がした。 『ええ。お話をくださるとっていましたわ』

「今すぐ会えますか。母抜きで、だけで話がしたいです」 『ええ、構いませんよ。私も、あなたとお話ししたかったところです』

女は切の躊躇もなく応じた。 『松戸駅の、イトーヨーカドーの向かいにあるガストにいます。奥の禁煙席に座っていますから』

指定された所は、駅から歩いて数分の、何の変哲もないファミリーレストランだった。

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バスとを乗り継ぎ、私がに着いたのは午をし回った頃だった。

自ドアをくぐると、内は仕事帰りのサラリーマンや、ドリンクバーの周りに群がる学たちで賑わっていた。ファミレス特の、油の匂いと成甘料の匂い、そして軽なポップミュージックが内に満ちている。

こんな常の象徴のような所に、あの夜の恐怖の主がいるのか。 私は唾をみ込みながら、内の通を奥へとんだ。

番奥のボックス席に、その女はで座っていた。

佐伯玲子と名乗った女は、歳という齢相応に見えた。 派な化粧もしていなければ、気な笑みを浮かべているわけでもない。仕ての良い、だが入れのき届いた濃紺のウールコートを子の背にかけ、いグレーのタートルネックセーターを着ていた。髪は肩ので綺麗に切り揃えられ、細い属フレームの鏡をかけている。テーブルのには、半分ほど減ったホットのアールグレイのカップと、革張りのさな帳が置かれていた。

どこからどう見ても、方都の私学の事務員か、あるいは真面目な公務員のようにしか見えなかった。 そのあまりの「普通さ」が、かえって私の喉を締め付けた。

「……佐伯さんですか」

私が声をかけると、女は静かに顔をげ、鏡の奥の細い目をわずかに細めた。

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