"深夜1時、母は開けるなと言った" 第3話
という、老いた特の頑迷な拒絶が張り付いていた。 ここでいくら問い詰めても、母は真実をにしないだろう。父がきていた頃から、母は都の悪いこと、恐ろしいことから目を背ける、いつもこうして貝のようにを閉ざしてきたのだ。
私はため息をつき、ちがった。 「分かった。でも、このままにはできない。鍵を替えるよ」 「え……?」 「このの鍵、のディスクシリンダーのままでしょう。ピッキングも簡単にできる型だし、鍵がどこに回ってるかも分からない。今の午にでも業者を呼んで、防犯性のいやつに付け替える」
母の表が、らかに揺で揺らいだ。 「そんな……おもかかるし、そこまでしなくても。戸締まりさえちゃんとしていれば丈夫よ」 「丈夫じゃないから言ってるの。私が払うから、文句は言わないで」
私は母の制止を聞かずに、スマートフォンで松戸内の鍵修理業者を検索し、そので張事の配を済ませた。母は居の隅で、まるで自分の縄張りを奪われる物のように、げな線を私に投げかけ続けていた。
午過ぎにやってきた鍵の若い作業員は、際が良かった。 古い錠をし、防犯性のいディンプルキーのダブルロックへと交換する作業を、ほどで終えてくれた。
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「これで丈夫ですよ。ピッキングはまず能ですし、サムターン回しの対策も施してあります。鍵は本ありますので、無くさないようにしてくださいね」
作業員から真しいの鍵を受け取り、代を支払って見送った。 玄関には、しく取り付けられた堅牢なシリンダーがつ、たいを放っていた。物理な防御壁が築かれたことで、私の胸の痞えはわずかに軽くなった。
振り返ると、母が玄関のがり框に腰をろし、を見つめていた。 その元には、作業員が取りして置いていった、使われていた古い真鍮製のシリンダーと、擦り切れた旧型の鍵が転がっていた。
母はおもむろにを伸ばし、その古い鍵の本を拾いげた。 そして、ポケットから取りしたポケットティッシュに包むと、そっとカーディガンのポケットへと滑り込ませた。
「母さん、それ、もう使えないよ。シリンダーごと替えたんだから」
私が声をかけると、母はびくりと肩を震わせ、ポケットを押さえた。 「……分かってるわよ」
母の声は掠れていた。 「分かってるけど……お父さんが建てただし、も使った鍵だから。急にゴミ箱に捨てるのは、なんだか忍びなくてね」
そう言ってちがると、母は度もしい鍵に触れようとせず、リビングの奥へと姿を消した。
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その夜、女は現れなかった。 夜のを過ぎても、を過ぎても、チャイムが鳴ることはなかった。 を澄ませても、聞こえるのは折くの国をる型トラックの音と、枯れの庭がに擦れる音だけだった。
私はししていた。鍵をしくしたこと、そして昨夜私が毅然とした態度で警察を呼ぶと警告したことが、相に届いたのだとった。所詮は、相が女つで暮らしているとい込んで揺さぶりをかけてきた、卑劣な嫌がらせの類だったのだろうと。
だが、その平穏はと持たなかった。
の曜、私は都内のオフィスへ社していた。 夕方、急ぎの案件が片付いたため、予定よりもほどく退社できることになった。駅のホームから母に話を入れた。
『もしもし、千?』 母の声は、受話器越しには至って穏やかに聞こえた。 「あ、母さん。仕事がく終わったから、半にはに着くよ。何か買って帰るものある?」 『いいえ、丈夫よ。ちょうど今、お夕飯の支度をしていたところだから。気をつけて帰っておいで』
話を切り、常磐線の速に揺られながら、私は久しぶりに常の覚を取り戻しつつあった。週末には父の座の凍結解除や、役所での続きをめなければならない。母の怯えも、が経てばしずつらいでいくだろう。
そう信じたかった。
松戸駅からバスに乗り、留所から宅の坂を歩いて実へと向かった。