"深夜1時、母は開けるなと言った" 第2話
どうして今夜は鍵をかけて、居留守を使うの?」
私は隣の母を見た。 母の顔からは完全に表が消え失せていた。青さを通り越して気になった顔で、母は私の線を避けるように線を宙に泳がせ、次の瞬、すがるように壁のスイッチへとを伸ばした。
パチリ、とさな音がして、玄関の元を照らしていた豆球が消えた。
のが、完全なに包まれた。
「母さん……?」
母は何も答えず、ただ暗ので私の腕を掴んだまま、荒い息を殺していた。 の女は、それ以ドアを叩かなかった。 ただ、かすかに擦れの音がして、カツン、と何かが玄関ポーチのコンクリートに置かれる音が響いた。
「また来るわ。話はまだ終わっていないもの」
ゆっくりとれていく音が、夜の底に吸い込まれて消えた。完全に静まり返るまで、私と母は暗ので歩もくことができなかった。
翌朝、午過ぎ。 私は浅い眠りから目を覚まし、着替えるもなく階へりた。 玄関の鍵は、内側から厳にかかったままだった。部の本締まり錠も、部の補助錠も、ドアガードもしっかりとかかっている。
私はチェーンをさずに、ドアを数センチだけけてを覗いた。 朝のえ切った空気が顔を打つ。ポーチの隅、傘てのすぐ脇に、それが置かれていた。
ワインレッドの布で包まれた、細の折りたたみ傘だった。
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私はドアをけ、それを拾いげた。 見覚えがあった。持ちの製部分に、さなの彫刻が施されている。父が退職祝いか何かで母に買い与えたもので、母がずっと切に、階の自分の部のダンスの引きしにしまっていたはずの傘だった。
傘の骨は丁寧に畳まれ、バンドで留められていたが、先端には昨夜の結とは違う、のね返りがくこびりついていた。
「母さん」
リビングへ入ると、母はすでに起きて台所にっていた。お湯を沸かすヤカンが、く唸りをげている。
「これ。玄関のに置いてあったよ」
傘を卓のに置いた。 母はヤカンのを止め、ゆっくりと振り返った。その線が傘に留まった瞬、母の肩がわずかにねがった。
だが、母は言わなかった。 「どうしてこれがにあるの?」とも、「あの女が持っていったの?」とも言わなかった。
ただ無言で歩み寄ると、布巾を枚に取り、傘の持ちを丁寧に、まるで誰かの指紋を拭き取るかのように何度も擦った。そして、何も言わずにそれを持って階へとがっていった。
その背を見送りながら、私はえ切ったのにち尽くしていた。
昨夜、母が本当に恐れていたのは、あの女が無理やり押し入ってくることではなかったのだ。 あの女が、すでにこのの敷居を跨いだことがあるという事実を、私にられることだったのだ。
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そのの昼、私は母を居に座らせ、真正面から問い質した。
「警察に相談しよう。あんなに押しかけてきて、名までられてるなんて異常だよ。お父さんの会社の関係者なの? おのトラブル?」
母は湯呑みを両で包み込んだまま、頑なに目を伏せていた。
「警察なんて、げさなことしないで頂戴。ご所のもあるし……ただの、昔のお父さんの仕事のことで、し勘違いをされている方なのよ」 「勘違いで、あんな夜に来るわけないでしょう。それに、先週に入れたって言ってたじゃない。本当なの?」
母の指先がくなるほど湯呑みが握りしめられた。
「……お線をあげたいって、昼に突然見えたのよ。お父さんがお世話になった方だっておっしゃるから、玄関先でしだけお線をあげていただいたの。それだけよ。傘は、そのにお忘れになったのを、私がうっかりお返しするのを忘れて……それで、昨夜返しにいらしたんじゃないかしら」
あまりにも無理のある嘘だった。 忘れ物を返すためだけに、夜のにやってきてドアを叩き、「あのがぬのを待っていた」などとにするがどこにいるだろうか。第、階のタンスの奥にあるはずの傘を、なぜ母がわざわざ階にろしてに貸す必があるのか。
だが、母の顔には「これ以は言も喋らない」