"5年付き合った社長に退職届を出した日、私だけが知らなかったこと" 第10話
私の暮らしは、あなたへの返事ではない
ミュンヘンへ来て1ほどたったころ、私は直さんと付きい始めた。
それまで、何度も事をし、散歩をした。私が仕事で遅れれば、先にべて待っていた。彼の都が悪ければ、また別のにした。
ある夜、帰るに聞かれた。
「今度も会いたい。でも、友としてだけじゃなくて」
私は袋をした。
「私もです」
彼は笑った。それだけで、私も笑った。
その、私はしだけ確認した。
「仕事が忙しいは、で休みたいこともあります」
「私もあるよ」
「あと、急に予定を決められるのは苦です」
彼は頷き、自分の予定も話した。
好きだと言った直に、こんな相談をしてもいい。私はそのことが嬉しかった。
彼は、次にいつ会うかを尋ねた。私は帳をき、で決めた。
怜司がったのは、仕事の会で、私が迎えを断ったときだった。
「交際しているが来るので」
そう言うと、彼は私を見た。ほかの担当者がいたので、それ以何も言わなかった。
翌、会議を終えてると、彼が廊にいた。
同の社員もいた。怜司は距を保ち、し話したいと言った。
私は会議の扉をけたまま、用件を尋ねた。
「私を傷つけるために、付きう必はないだろう」
彼はい声で言った。
私は瞬、言葉を失った。
「相原さん。私の活は、あなたへの返事ではありません」
広告
彼の顔が変わった。
「私が誰と会うかを、あなたの気持ちから考えないでください」
同していた社員が、会議のを伝えた。
私は資料を持ち直した。
「私活の話は、もうしません。次は業務の窓を通してください」
廊を歩きながら、昔なら言い返したことを気にしていたとった。たいと言われるのが怖くて、余計な説をねたかもしれない。
今回は、言った内容を変えるつもりはなかった。
エレベーターを待つに、直さんから夕の相談が来た。私は予定どおり帰ると答えた。
その件は、理さんにも報告した。
彼女は相の責任者へ条件を再確認し、私をで対応させないことにした。
数週、提携交渉の報告会が終わったころ、はひどいだった。
私は直さんのを待っていた。相原グループの担当者から、配したが交通の都で遅れていると聞いた。
怜司は建物の入にっていた。傘を持たず、袖が濡れていた。
直さんが来ると、私はそのことを声で伝えた。
「くのホテルなら、送る?」
私はし考えた。
「きりにはなりたくないけど、あなたが緒なら」
「嫌なら、断っていいよ」
私は頷いた。業務の相を、い距だけ送ることにした。
直さんが怜司に声を掛けた。
「森川です。彩乃さんと交際しています。ホテルがいと聞きました。
広告
よければ、先にお送りします」
怜司は彼の顔を見た。それから、差しされたを握った。
部座席へ乗ると、彼は窓側へ体を寄せた。
内はかかった。
直さんが、信号で止まってから私にさな保温ボトルを渡した。
「温かいお茶。む?」
私は礼を言った。
「夕飯、残してあります?」
「あるよ。今は、ちゃんと作れた」
私は笑った。
「回も、べられましたよ」
「ずいぶん、慰める言い方だね」
部座席は静かだった。
怜司に見せるための会話ではなかった。いつもと同じ、帰宅の話だった。
がフロントガラスを流れた。直さんは速度を落とし、ホテルへ向かうを確認した。
私はボトルを閉め、バッグへ戻した。
次の交差点で、横からい警笛が聞こえた。
「彩乃!」
ろで怜司が叫んだ。
直さんがブレーキを踏んだ。体がく引かれ、窓の向こうにきなが迫った。
私は名を呼ぼうとした。
衝撃で、声が途切れた。