"追放された妻と「離婚しないで」と泣く愛人" 第10話
だが、そこにいるはずの「従順な若い嫁」と「の男児」は、も形もなかった。
美優は、私が伝えた通りにいたのだ。 昨夜のうちに産院の相談窓を通し、夫側の族による過度な干渉を理由に面会を遮断。 今朝の、直たちが起きすよりに、隣のにむ実の姉ので病院を抜けしていた。
義母からの着信を切ると、今度は直からいメッセージが届いた。
『美優の姉貴のアパートまで来た。話をつけてやる』
指先で画面をタップし、そのまま画面を伏せる。 あの男の浅はかさは、本当に底がれない。
相のテリトリーに乗り込めば、力ずくで言うことを聞かせられると本気で信じているのだ。
そのの夕方、美優から話がかかってきた。
背から、児特の々しい泣き声と、赤ん坊をあやす女性の静かな声が聞こえる。 美優の姉だろう。
美優の声は、まだ掠れていた。 けれど、昨までのパニックに陥った調子とは違い、どこかえ切った、異様な静けさを含んでいた。
「……千恵さん。さっき、直さんとお義母さんが来ました」
「乗り込んできたの?」
「はい。インターホンを何度も連打して、ドアをガンガン叩いて……所迷惑だから、エントランスのロビーで話しました。姉も同席して」
美優は度、く息を吸った。
「直さん、いきなり鳴り散らしたんです。
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『俺の顔にを塗る気か! 母さんがどれだけ楽しみにして準備してたとってるんだ!』って」
「……義母は?」
「お義母さんは、腕組みをして私を睨みつけていました。『美優さん、最初からが儘を通そうなんて許しませんよ。の嫁になった自覚を持ちなさい』って」
の、自分の姿がフラッシュバックする。 あのにを踏み入れ、しでも自分の見を言おうとするたびに、義母はまったく同じ台を吐いてきた。
「それで、美優さんは何て言ったの?」
「全部、聞きました」
美優の声が、微かにくなった。
「これからの賃と費はどう分担するのか。私が育休当をもらっているの活費はいくら渡してくれるのか。赤ちゃんの夜泣きの対応はどうするのか……つずつ、にいて直さんに突きつけました」
「直は、何て?」
「絶句してました。目を泳がせて、『そんなの、暮らしていけば何とかなるだろ』って誤魔化そうとして……だから私、言ったんです。『千恵さんのは、何とかなってたんじゃなくて、千恵さんが全部自分の料から穴埋めしてたんですよね?』って」
話の向こうで、美優が乾いた笑いを漏らした。
「直さん、顔を真っ赤にして叫びましたよ。『お、なんでそんなことってんだ! 千恵の入れ恵か!』って。『あいつみたいにげのない、賢しい女の真似すんな!』って」
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げのない、賢しい女。
、文句も言わずに働き、事をこなし、計の赤字を埋め続けてきた妻に対する、これが夫の本音だった。 都よく搾取されているだけ「いい妻」で、権利を主張した瞬に「げのない女」に成りがる。
「そのです、千恵さん」
美優の声から、温度が完全に消えた。
「お義母さんが、信じられないことを言いました」
「……何を言ったの」
「お義母さん、私の抱いてる赤ちゃんを指差して、こう言ったんです」
美優の呼吸が、微かに震える。
『いうちから文句ばかり言うような嫁なら、うちには必ないわ。昔の千恵さんの方が、よっぽどしくて役にったわね。美優さん、あんたがどうしてもに入りたくないなら、で勝にていきなさい。その代わり、その子は置いていきなさいよ。の血を引いた本物の跡取りなんだから』
胃の底が、ドロリとく波打った。
母親など、誰でもいいのだ。 あの老婆にとって、子供は「の血脈」という自分のちっぽけなプライドを証するためのトロフィーに過ぎない。 産んだ女の痛みも、母乳の温もりも、何もかもどうでもいい。 ただ、自分の支配に置ける「男の孫」さえに入れば、母親のなど邪魔な搾りかすでしかないのだ。
「私……臓が止まるかといました」
美優が、絞りすように言った。
「私が産んだ子です。お腹を切るいをして、命がけで産んだ私の子供です。それを……『おはいらないから子供だけ置いていけ』って……あんなが、この世にいるなんてわなかった」