"追放された妻と「離婚しないで」と泣く愛人" 第1話
ダイニングテーブルのに、緑の枠線が入ったが放りされた。
すでに夫の欄には、乱暴な跡で「直」と署名がされ、朱肉の匂いが微かに漂っている。
そののすぐ隣に、義母が震える指で枚の写真を叩きつけた。
まれたばかりの、まだ赤黒い肌をした男の赤ん坊。 産着の胸元には、産院のタグがついていた。
「美優さんが、派な男の子を産んでくれたわ」
義母の声は、歓でずっていた。 歳とはえないほどぎらついた線が、私を貫く。
「に、本物の跡取りがまれたのよ。これでやっと、先祖に顔向けができる。千恵さん、あなたも母親ならの程というものが分かるでしょう。もうこのに、あなたの居所はないわ」
胃の奥が、ぎゅっとたく縮みがる。
結婚して。 このリビングで、私はどれだけの言葉をみ込んできたのだろう。
隣に座る夫の直は、私と目をわせようともしない。 缶ビールをあおり、テーブルの角を爪で刻みに叩いている。
「……そういうわけだからさ。千恵、今までご苦労さん」
あまりにも軽い、まるで派遣社員との契約を打ち切るような調だった。
「美優も赤ちゃんも、来週には退院してここに入るから。おと子供たちの荷物は、今夜にまとめてくれよ。母さんをこれ以イライラさせたくないんだ」
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「子供たちも?」
喉の奥がカラカラに乾いていた。 声が擦れる。
「陽菜と奏太も、今夜ていけと?」
「当たりじゃないの」
義母がを鳴らし、ちがってリビングの棚をけた。 そこから取りされたのは、歳になる息子の奏太が、昨まで切に抱えていたスケッチブックだった。
表には、鉛で描いたきな青い鳥。 義母はそのスケッチブックを、まるで汚れたゴミでもつまむようにしてゴミ箱のにかざした。
「こんな女の子みたいな絵ばかり描いてるから、派な跡取りになれなかったのよ。男のくせにメソメソして、父親に似ても似つかない。の男なら、もっとで元気にり回るものよ。こんなけない血、うちには必ないわ」
「やめてください!」
私が叫ぶのと同に、階の階段からさな音が駆けりてきた。
パジャマ姿の奏太と、そのをく引く歳の女、陽菜だった。
は息を殺して、階での話を聞いていたのだ。 奏太の目は涙で真っ赤に腫れがり、唇が刻みに震えている。
「ばあば、それ……僕の……」
奏太が震えるを伸ばそうとした瞬、義母は酷にをした。 バサリと鈍い音をてて、スケッチブックがゴミ箱のに落ちる。
「の名を継ぐのは、今まれた男の子だけよ。あなたたちに構っている暇なんて、このにはないの」
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静寂が、リビングを埋め尽くした。
テレビの消えた画面に、直した私たちの姿が映り込んでいる。 その、私のの裾を握りしめていた陽菜が、さく、けれど異様なほど通る声で呟いた。
「……じゃあ、私と奏太は?」
陽菜は義母を見つめていた。 歳の女とはえないほど、暗く、乾いた瞳だった。
「私と奏太は……今まで、おばあちゃんの孫じゃなかったの?」
義母は瞬、言葉に詰まったように線を泳がせた。 けれど次の瞬には、忌々しそうに顔を背け、直に向かって吐き捨てた。
「直、く役所の類を片付けさせなさい。子供にこんな目で見られるなんて、本当に気が悪いわ。母親の育て方が悪い証拠よ」
直は舌打ちをして、スマホの画面に目を落としたまま言った。
「陽菜、の邪魔するな。千恵、さっさと荷物まとめろよ。、呼んでやるから」
胸の奥で、張り詰めていた糸が、音をてて千切れた。
しみでも、絶望でもない。 ただ、絶対零度の気が、のてっぺんからの先まで突き抜けていく。
私はゴミ箱に歩み寄り、底から奏太のスケッチブックを拾いげた。 表についた埃を、のひらで丁寧に払う。
そして、直と義母のにった。
「子供は、あなたたちが欲しいに拾って、いらなくなったら捨てるオモチャじゃありません」
「……あ?」
直が苛ちを隠さずに顔をげた。
「何き直ってんだよ。養ってもらってた分際で」
「私名義の通帳も、子供たちの保険証も、全部元にあります。