"23年尽くした妻の追放✕四十九日の愛人親子" 第9話
悠斗をここにまわせる気なんて、これっぽっちもなかったくせに!」
夫の目が、瞬だけ激しく泳いだ。 だが、次の瞬には、嘲るような笑いを元に浮かべた。
「……返す?」
夫はで笑い、靴を脱ぎ捨ててがり框に腰掛けた。
「俺がいつ、あの240万を『借』として受け取ったなんて言った?」
え切った玄関に、乾いた沈黙が落ちた。
理恵が役所の無料法律相談に駆け込み、弁護士のに通帳とスマートフォンの画面を並べたのは、それからのことだった。
机のに置かれた、240万円の振込細。 そして、夫や義母とのLINEのやり取りの履歴。
髪交じりの弁護士は、類を通り確認すると、鏡を押しげて静かに言った。
「法に借として返還を請求する、『借用』がない点が極めて利に働きます。相方は『結婚を提とした共同活の準備資として任に贈与されたものだ』と主張してくるでしょう」
「でも、事なんて始まってもいないんですよ!? 最初から騙すつもりで――」
「ええ。使途を偽って員を交付させたのであれば、法為に基づく損害賠償請求、あるいは当利得の返還請求として戦う余は分にあります。ただ、がかかる。相に資産がなければ、仮に勝訴判決を取っても回収は極めて困難です」
資産がない。
その言葉が、理恵の胸にく突き刺さった。
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あのは義父の名義のままであり、夫の単独所ではない。 そして、夫の個座には、すでになど円も残っていない能性がかった。
方その頃、のでは、別の獄の蓋がいていた。
「母さん、頼むから理恵ので余計なことを言うなよ」
暗い茶ので、夫が義母の子に詰め寄っていた。 テーブルのには、督促状とかれた赤い封筒が何枚も散らばっている。
「向こうが弁護士をててきたら、『あのは理恵が自発にしてきた活費だ』って言い張るんだ。いいな? 贈与だってことにしなきゃ、俺が詐欺で訴えられるかもしれないんだぞ」
子は青ざめた顔で、息子の顔を見つめた。
「さ、詐欺って……あんた、本当にあの240万、の修繕に使ってないの?」
「使ってるわけないだろ!」
夫は苛ちを隠そうともせず、座布団を蹴ばした。
「の副業の穴埋めで、180万は先週の期にそのまま消えたよ! そうしなきゃ、今頃このに怖い取りてが押し寄せてたんだ! 母さんだって、平穏に暮らしたかっただろ!」
「で、でも……私に渡した40万は……」
「だから、その40万だよ!」
夫の目が、血っていた。
「母さんだって受け取っただろ! 『健司は頼りになる』ってんでタンスに隠したじゃないか! もし警察汰になったら、母さんも共犯だぞ。息子が面したを受け取って、緒に使い込んだってことになるんだからな!」
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子の呼吸が、ヒッと喉の奥で止まった。
共犯。 息子が、自分を警察のに差しそうとしている。
23、どんなに儘を言っても、どんなに理尽な求をしても、黙ってをげて飯を炊き、呂を沸かし、の世話までしてくれた嫁の顔が、子の脳裏をよぎった。 あの嫁を追いし、息子の言いなりになってに入れたはずの「平穏な老」は、たった週で跡形もなく崩壊していた。
はない。 を綺麗にしてくれるしい嫁も来ない。 残ったのは、380万円の借を抱え、母親に罪を擦り付けようとする、醜い初老の息子だけだった。
そのの夜、私のスマートフォンが鳴った。
画面に表示されたのは、登録のない局番。 の固定話の番号だった。
美のの台所で、夕の片付けをしていた私は、ゴム袋をして通話ボタンを押した。
「もしもし」
受話器の向こうから、激しい啜り泣きが聞こえてきた。
『恵子さん……! 恵子さん、お願いだから、帰ってきて……!』
子の声だった。 かつて私を「で気な女」「タダ飯い」と罵ったときの傲さは、微も残っていなかった。
『あの女なら、もう私が追いすから! 健司にもちゃんと言い聞かせるわ! だから、お願い……に戻ってきてちょうだい……!』
私は、濡れたを布巾で拭きながら、を交えずに問いかけた。
「お義母さん。
話をかけてきたのは、私を追いしたことを謝るためですか?」
瞬、話の向こうが静まり返った。