"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第15話
「このの名義も、預貯も、すべて法律に従って私が続きをめます。あなたが勝に持ちした健さんの通帳と実印は、今夜に私の弁護士宛てに郵送してください。の正午までに届かない、業務横領および窃盗で警察に被害届を提します」
「あ、あんた……」 美の唇が震えた。 「お兄ちゃんの骨は……佐藤の墓は……」
「骨は、引き取ります」 私はややかに言った。 「妻ですから。……でも、あなたたちが守りたがっているその『佐藤の墓』に入れるかどうかは、私が決めます」
美は絶句し、ただに両をついて震えることしかできなかった。 親戚たちも、完全にを噤んでいた。 誰として、私を止める者はいなかった。
私は誰にも礼することなく、すっとちがった。 背筋を伸ばし、の入りへと向かう。
「お母さん!」 美穂がちがり、私のろを追ってきた。 「お母さん、待ってよ……! 緒に帰ろう? 私、どうしたらいいの……?」
私は襖にをかけ、振り返った。 泣き腫らした顔で私を見つめる、私の娘。 この子もまた、父親の甘えに加担し、母親を最の瞬まで蚊帳のに置いただ。
私は微笑みもしなかった。 りも、責めるも、瞳には宿していなかった。
ただ、静かに告げた。
「の朝、区役所の民課で会いましょう」
襖を閉めた。 背で、娘のい鳴のような泣き声が響いたが、私のが止まることは度となかった。
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午分。 区役所の民課ロビーは、自ドアがくたびにたい初のを吸い込んでいた。
パイプベンチの端に、美穂が座っていた。 膝のに置いた黒いバッグを抱きしめ、指先を刻みに震わせている。 私の音に気づくと、弾かれたように顔をげた。 目元は赤く腫れがり、ファンデーションが涙の跡で崩れていた。
「……お母さん」
掠れた声。 私は隣には座らず、娘のにったまま、コートのポケットから類の束を取りした。
「司法士の先と、今朝番で連絡を取ったわ」 を交えず、事務なトーンを保った。 「直さんは正式に相続放棄の続きに入ったそうよ。だから、遺産分割の対象は私と美穂、だけになる」
美穂が息を呑んだ。
「実のと建物は、売却の続きをめるわ。解体して更にして、売却益は法定通り、私が分の、美穂が分ので分ける。あの務の残務理も、弁護士を入れて綺麗に清算する筈よ」
「売却、するの……?」 美穂が震える声で呟いた。 「あの……私たちが、ずっと暮らしてきただよ?」
「そうね」 私は娘の目をまっすぐに見ろした。 「でも、私がかけて守ってきた『あの』は、もうどこにもないわ。あそこにあるのは、お父さんが隠し続けた嘘の残骸と、美さんが執着した棒根性だけよ。あんな所に、分秒だって私の未練を残す気はない」
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美穂は言葉を失い、喉を鳴らして俯いた。
今朝、美の代理弁護士から私の元に、伏の連絡が入っていた。 実印と通帳はすべて返還され、親族たちからも「美とは絶縁する」という連絡が叔父から届いた。 私文偽造と脅迫の証拠を握られた美は、親族内での信用を完全に失い、世体の牢獄に自ら閉じこもる羽目になったのだ。 けれど、そんな女への復讐など、今の私にとってはどうでもいい枝葉に過ぎなかった。
「美穂、くわよ」
私は踵を返し、戸籍窓の番号札発券へと向かった。
民課の戸籍係。 午のが差し込むカウンターに、私は持参した枚の届を差しした。
緑のインクで印刷された、公な類。
枚目は、『姻族関係終届』。 配偶者がしたに、配偶者の血族――義理の親や兄弟姉妹との法な親族関係を、方に断ち切るための届。 これをせば、私は今この瞬から、佐藤のではなくなる。 美とも、あの親戚たちとも、赤のになる。
そして、もう枚。 『復氏届』。 婚姻によって改めた姓を捨て、まれ育った旧姓へと戻す届。
窓の職員が、類の記載事項を確認する。 「佐藤由美様ですね。姻族関係の終、および旧姓への復氏。受理いたしますが、よろしいですか?」
「はい。お願いします」
迷いは、ミリもなかった。
私の背で、美穂がさく息を呑む音が聞こえた。