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"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第14話

美穂の目から、粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。 「……なんで、ってるの……」

「直さんから聞いたわ。健さんは初、何かを必にき残そうとしていたって。美さんに奪われないように、目に見いに来たあなたに、無理やり持たせたんでしょう」

美穂は嗚咽を漏らしながら、抱えていたバッグの底から、茶い封筒を取りした。 封筒の表面は、娘の汗と涙でぐしゃぐしゃに波打っていた。

「……渡せなかったの」 美穂が泣きじゃくった。 「読んだら……お母さんが絶対に壊れちゃうとって……! お父さんとお母さんのが、全部嘘になっちゃうとって……! 私、怖くて……!」

「美穂」 私は娘のから、その封筒を静かに引き抜いた。 「が嘘だったんじゃないわ。お父さんが、嘘をつき通す勇気すらないだっただけよ」

封筒の封は、すでに切られていた。美穂が度けて読んだ証拠だった。

私は指先を入れ、からつ折りにされた便箋を引きした。 病院の売で売っているような、っぽい緑の便箋。

臓が、たいでぎゅっと握りつぶされるように痛んだ。

もし、ここに。 『由美、している』 『本当にすまなかった、許してくれ』 『まれ変わっても君と緒になりたい』 そんな、都のいい懺悔の言葉が並んでいたなら、私はこので泣き崩れていただろう。

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そして、夫をれみ、許してしまったかもしれない。

だが。

便箋をいた私の目にび込んできた、最初の。

『由美へ。君に話さなかったことが、まだある』

喉の奥が、からからに干からびた。 文字が、震えている。 圧がく、点滴の針が刺さった腕で必にいたことが窺える。 だが、そこにかれていた内容は、の告でも、許しの乞いでもなかった。

『直が学に入った、会社の積を取り崩して、あいつの座に百万円を入れた。 君が、親父のオムツ代を削るために、いスーパーを自転で軒もハシゴしていたのをっていた。 夜、湿布を貼った君のを見て、胸が張り裂けそうだった。 でも、俺は直に父親らしいことをしたかった。 度捨てた息子に、でしか償えない自分がけなかった。 君に話せば、絶対に許してくれたかもしれない。君は優しいから、俺の罪を緒に背負ってくれたかもしれない。 でも、君に軽蔑されるのが、怖かった。 君の綺麗な目に、俺の浅ましさが映るのが、ぬほど怖かった。 だから、嘘をねた。 親父の介護費用がりないと言えば、君がパートを増やしてくれると分かっていて、甘えた。 由美、俺を許さなくていい。 ただ、美穂のタンスの奥にある通帳を見てくれ。 残ったを、全部君に渡したかった。 でも、俺はもう、君の顔を見ることができない』

そこまで読んで、私は便箋をゆっくりと畳んだ。

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涙は、なかった。 ただの滴も、頬を濡らすことはなかった。

目のが真っ暗になるどころか、界が異常なほどクリアになっていく覚があった。

許してくれたかもしれない? 優しいから、緒に背負ってくれたかもしれない?

……ふざけないで。

私は神様でも、聖母でもない。 ただの、あなたの妻だった。

円いもやしを買い、腱鞘炎の痛みに耐え、義父の排泄物の処理をしながら、私が守りたかったのは『私たちの活』だった。 それを、あなたはこの男の、ちっぽけで浅ましい自己満のために、で踏みにじっていたのだ。

優しい夫? 器用な? 違う。 この男はただ、自分が『いい父親』であり、同に『いい夫』でありたかっただけだ。 悪者になる痛みに耐えられず、をかぶる勇気もなく、すべての荷を、番くにいる妻の背に黙って背負わせ続けていただけだった。

。 私がし、支え、守ってきた男の正体は、どこまでも救いようのない、ただの卑怯者だった。

「……お母さん」 美穂が、恐る恐る私の顔を見げた。 私の無表が、娘には何よりも恐ろしかったのだろう。

私は便箋をつに折り、喪のポケットにくしまい込んだ。

そして、畳のに突っ伏したまま、抜け殻のようになっている美を見ろした。

「美さん」

私の静かな声に、美がビクッと肩を震わせ、顔をげた。

マスカラが涙で溶け、目の周りが黒く汚れていた。

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