"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第12話
親戚たちので、いため息と舌打ちが漏れた。 『やっぱりね』 『介護が終わったらこれだ』 『恩らずな嫁だこと』
無責任な同調圧力が、狭いの空気を急速に濁らせていく。
「ですから、本は弁護士の先ち会いのもと、きっちりとケジメをつけさせていただきます」 美は顎をしゃくり、隣の弁護士に図を送った。 弁護士が鞄から枚の類を取りし、畳のを滑らせるように私のに差しす。
『相続権放棄申述承諾』。
「兄が遺した実の、務の権利、そして預貯の切を放棄する類よ」 美は勝ち誇った笑みを浮かべ、赤いマニキュアを塗った指先で佳代と直を指差した。 「お兄ちゃんの本当の族は、男である直くんと、彼を女つで育てげた佳代さんなの。あんたみたいな妻が、介護を実に佐藤の財産に居座るなんて絶対に許さないわ。さあ、そこに署名して実印を押しなさい」
親戚の叔父が、うんうんと頷きながらをいた。 「そうだぞ、由美さん。直くんは佐藤の血を引く男だ。督を継ぐのは筋というものだ。君も潮を弁えなさい」
鳴り声も、言い訳も、私のからはなかった。 臓は鐘を打っていたが、指先は恐ろしいほど静かだった。
私は喪のバッグのファスナーをゆっくりとけた。
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から取りしたのは、今朝、法務局との窓を回って揃えてきた通の類。
畳のに、音もなくそれを並べた。
「……何よそれ」 美が眉をひそめた。
「法務局で取得した、このと建物の『登記事項証』です」 私はを交えず、淡々と告げた。 「このは、に義父がくなった際、健さんと私の共同名義で登記されています。持分の分のは、私の固の財産です。健さんがくなったからといって、私が私のから追いされる法根拠はありません」
弁護士の眉が、ピクリといた。
「さらに、民法第百条」 私は美の目をまっすぐに見据えた。 「配偶者は常に相続となります。法定相続分は、妻である私が分の。残りの分のを、健さんの実子である直さんと美穂で分のずつ等分する。これが本の法律です」
「はあ!?」 美が畳を叩いてちがった。 「法律、法律って、あんた兄を捨ててていったじゃないの!」
「追いしたのは、あなたです」 私は声を荒らげなかった。けれど、部の隅々まで届くい声だった。 「そして、もうつ。美さん。あなたには、健さんの遺産に対する相続権は『円も』ありません」
静まり返る。
「民法、被相続に子および配偶者がいる、兄弟姉妹に相続権は発しません。遺留分すらありません。
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つまり、この遺産分割協議のにおいて、あなたは何の権利も持たない、ただの部者です」
「ぶ……部者!?」 美の顔が、りで真っ赤に染めがった。首筋の青筋が浮きている。 「私が兄の面倒を見てきたのよ! 兄がぬまで病院に付き添ったのは私なのよ! なのに部者ですって!?」
「ええ、部者です」 私は類の束から、もう枚のを引き抜いた。 「そしてあなたが主張している『佳代さんが本当の族』という理屈。それも通用しません。に婚が成している以、佳代さんにも相続権はしない。……違いますか、弁護士先」
美の隣に座っていた赤羽弁護士が、気まずそうに鏡のブリッジを押しげ、線を逸らした。 「……法には、奥様のおっしゃる通りです。様、私から事に説差しげましたはずですが……」
「先、あんたどっちの方なのよ!」 美がヒステリックに叫び、畳を踏み鳴らした。 そして、すがるように最列の佳代の肩を掴んだ。
「佳代さん、言ってやりなさいよ! あなた、で直くんを育てて苦労してきたんでしょう!? お兄ちゃんに捨てられて、辛いいをしてきたんでしょう!? 今こそ、この女から全部奪い返して、佐藤の正妻として胸を張るじゃないの!」
美の爪が、佳代の黒いスーツの肩にい込んでいた。 親戚たちが固唾を呑んで、佳代を見つめる。
佳代は、ゆっくりと顔をげた。 赤く腫れたその目には、涙はなかった。 ただ、め切った、い疲弊と軽蔑だけが宿っていた。