"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第10話
「……あけみおばさん、いないよね?」 美穂が怯えたように周囲を見回す。
「いても関係ないわ。ここは私のよ」
私は迷わず、美穂の部の隅に置かれた、桐のチェストのにみた。 美穂が学の頃から使っていた、古い段のタンス。 美穂が結婚してをたも、そのまま置かれていた具だ。
番のい引きしをける。 には、代のジャージや古いアルバムが雑然と詰め込まれていた。
私はそれらをに引っ張りし、空になった引きしの底板を叩いた。 カツン、と乾いた音がする。 引きしの枠を両で掴み、完全にへと引き抜いた。
奥の暗がり。 タンスの背板と引きしの隙の、ホコリが溜まった空。
そこに、あった。
青いビニールテープで几帳面に留められた、分い茶封筒。
指先を伸ばし、それを引きずりす。 ずっしりとしたみがあった。 埃を払い、留められていたビニールテープをバリバリと引き剥がす。
から滑りてきたのは、冊の古い預通帳と、何枚もの振込細の束だった。
通帳の名義は、すべて『佐藤健』。 だが、そのは、私たちが活費や宅ローンの引き落としに使っていた元の方ではなかった。 都内のメガバンクの、私が度も見たことのない座。
ページをめくる。
印字された付と額。
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:百万円。 :百万円。 :百万円。
先の摘欄に、震えるでかれた鉛のメモ。 『直・入学』 『直・アパート契約』 『佳代・活支援』
息が止まった。 直が言っていた百万円どころではなかった。 総額で、千百万円を超えるが、この座から流していた。
「……うそ……」 ろから覗き込んだ美穂が、元を押さえてへたり込んだ。 「お父さん、こんなにお……どこから……」
通帳の入記録を見る。 そこには、夫の務のメイン座から、定期に『役員報酬』として増しされたが振り込まれていた。
夫は、会社の帳簿をに作っていたのだ。 私に見せていた「赤字続きでカツカツの決算」は、すべて偽物だった。 利益の部をこの隠し座にプールし、私には「節約してくれ」「親父の介護費用がりない」とをげながら、の庭へとせっせと横流ししていた。
美の言っていた「兄の会社を横領していた」という言葉の、本当のが氷解した。 美は、この隠し座のに気づいていたのだ。 そして、「兄が妻に会社のおを横流ししている」というみを握り、夫を脅迫して実のと会社の権利を奪おうとしていた。
夫は、妹の悪と戦っていたのではない。 自分がかけて積みげてきた『嘘の帳尻』をわせるために、きが取れなくなっていただけだった。
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「お母さん……」 美穂が泣きじゃくりながら、私の元にすがりついてきた。 「ごめんなさい……私、何もらなくて……お父さんが、直さんに申し訳ないことしたからって言うから……族みんなで仲良くできたらいいなって……私、バカだった……」
私は、娘を見ろした。 りは湧いてこなかった。 ただ、果てしない虚しさが、胸の空洞を吹き抜けていくだけだった。
「美穂」 私は静かに言った。 「あなたはバカじゃないわ。ただ、父親のずるさに甘えて、見たくないものから目を背けていただけよ」
「お母さん……」
「でもね、そのツケを払うのは、お父さんでも、あなたでもない。……私だったのよ」
通帳をバッグに収め、私はちがった。 埃にまみれた部をようとした、そのときだった。
ガチャン、と玄関の引き戸が乱暴にく音がした。
「誰よ! 誰が入ってるの!」
甲い、障りな叫び声。 美だった。
廊をドタバタとってくる音。 美穂の部のドアが乱暴にけ放たれ、コートを羽織った美が血相を変えてび込んできた。
「あんたたち……! 何勝に入り込んでるのよ! 棒じゃないの!」
美の線が、に散らばった類と、私のにあるバッグに留まった。 その顔から、瞬で余裕が消え失せ、狂気じみた焦燥が貼り付いた。
「あんた……見つけたの? それを……」
「ええ」 私は歩も引かず、美の目を真っ向から見据えた。
「見つけたわ。健さんがかけて隠してきた、の塊をね」
「返しなさいよ!」