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"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第6話

『直をお兄ちゃんの正式な男として親族に認めさせたいなら、今の会で喪主の隣に座りなさい』って。『そうすれば、実のの権利も直に譲るように配してあげる』って」

直の言葉に、私は眉を寄せた。

「だから……座ったんでしょう? あなたたちのためになるから」

「俺は、断りました」 直はきっぱりと言った。 「に俺たちを捨てた父親の遺産なんて、最初から円も欲しくなかった。俺が欲しかったのは、ただ……どうして俺たちを捨てたのか、その理由だけだった」

のが、のを吹き抜けていく。

「でも、父は最まで、その理由を言いませんでした」 直は自嘲するように元を歪めた。 「母にも、俺にも。ただ『すまなかった』と繰り返すだけで……本当に向きおうとはしなかった。あのはそういうです。面倒なことから目を逸らし、誰かが都のいい嘘を用してくれるのを、ずっと待っていただけの男です」

その言葉は、連れ添った私自の夫に対する評価と、恐ろしいほど致していた。

血の繋がった息子すら、この男の本質を見抜いていたのだ。 優しいのではない。 ただ、く、卑怯なのだ。

「父がくなる」 直が歩、私にづいた。 差しされた彼ののに、そのいがあった。

「識が朦朧とするで、父は何かを探すようにシーツを掴んでいました。

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叔母さんが席をした隙に、俺のを握って、このメモを渡されたんです」

「メモ……?」

「病院のメモ用に、震えるでかれていました。圧もくて、掠れていましたけど……父ははっきりと、俺に言いました。『これを、由美に渡してくれ』って」

私の臓が、ドクンとねた。

「叔母さんには見せるなと、父は言っていました。美穂ちゃんにも、渡せなかったみたいです。あの子が叔母さんに言いくるめられているのを、父も々づいていたんでしょう」

直は私のえ切った掌のに、そのつ折りにされたを置いた。 たいので、男の指先のだけが、微かに私の皮膚に残った。

「佐藤さん」 直は静かに、けれど逃げのない声で言った。

「父が息を引き取る直、最に呼んだのは、母の名じゃありませんでした」

私は息を止めた。

「『由美』って……そう呟いて、息が止まりました」

直はく礼すると、それ以何も言わず、斎の灯りのへと戻っていった。 ざかる背を見送りながら、私はのの片を握りしめた。

最に呼んだのが、私の名? だから何だというのだろう。

呼ぶなら、きているうちに呼べばよかった。 会いたいなら、のうちに話を寄越せばよかった。 の恐怖から逃げるために私の名を呼び、現実の責任からは最まで逃げ続けた。

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それが、夫の『』の正体だった。

私は灯ので、震える指でその片をいた。 鉛でかれた、々しい、だが違いなく見慣れた夫の跡。

そこには、謝罪の言葉などかれていなかった。 の告など、どこにもなかった。

ただ、歪んだ文字で、こう記されていた。

『由美へ。君に話していないが、まだある。美穂のタンスの奥を』

そこで文字は途切れ、激しいの乱れが残されていた。

話していない、?

胸の奥で、何かがたく、く沈んでいく音がした。 夫が隠していたのは、過の妻と子どもだけではなかった。

私たちが汗垂らして貯め、老のためにと信じ込まされていたの活の底に、まだ、私のらない巨なが沈んでいた。

私は片をく握りつぶし、黒いハンドバッグの底にねじ込んだ。 目から涙は、もう滴もなかった。

握りしめた片の端が、指ので湿っていく。

灯の青いの、私はその文字を何度も、何度も見つめ直した。

『由美へ。君に話していないが、まだある。美穂のタンスの奥を』

……?

の告でも、許しを乞う言葉でもない。 連れ添った夫が、ので最に遺した言葉が、。

胃の底から、苦い胃液がせりがってくる覚がした。 息がうまく吸えない。

私はもの、毎スーパーの特売チラシを見比べ、円いもやしを選んで買っていた。

義父のオムツ代や通院費を面するために、自分のなんて何も買わなかった。

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