"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第5話
「……待って。美穂、今なんて言ったの?」
「え……?」
「先週まで話せてたって、どういうこと? 健さんは、急したんじゃないの? 筋梗塞か何かで、突然倒れて……」
美穂が、濡れた目で私を見げた。 その表に、らかな戸惑いと怯えが浮かんでいた。
「……お母さん、何も聞いてないの?」
「何をよ」
「お父さん……急なんかじゃないよ。週以から、入院してたんだよ……?」
を鈍器で殴られたような衝撃だった。
「入院……?」
「うん……腎全が悪化して、救急搬送されて……週から、ずっと総病院の個に……」
美穂の声が、くから聞こえるようだった。 週。 。。 夫は、病院のベッドのにいた? 突然の事故でも、即でもなく、をかけて、に向かっていた?
「美穂、あなた……お見いにったの?」
「……目に、直さんと緒にったよ」
「美さんは?」
「あけみおばさんは、最初からずっと付き添ってた……佳代さんも、目に来て……」
みんな、っていたのだ。 美穂も。 直も。 佳代も。 美も。
誰もが病院に駆けつけ、病の夫の顔を見届けていた。 という、分すぎるほどのので。 誰として、私に連絡を寄越さなかった。
戸籍の妻である、私にだけ。
「なんで……」 私の喉から、血を吐くような呟きが漏れた。 「なんで、私に本も話をくれなかったの……? 美穂、あなた私の娘でしょう!? お父さんが危篤なら、どうして教えてくれなかったの!?」
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「あけみおばさんが……!」 美穂がを塞ぐようにして叫んだ。 「おばさんが、『お父さんの容態が定だから、由美さんを呼んだら興奮して臓に障る』って……! 『由美さんには、お兄ちゃんの識が戻ってから、番いいタイミングでらせるから』って言ったの! お父さんも、それに頷いてたのよ……!」
健さんが。 頷いていた。
私を呼ぶなという義妹の言葉に、夫自が、同していた。
の力が完全に抜けた。 コンクリートの面に、膝から崩れ落ちそうになるのを、必で壁にをついて支えた。 指先がたいコンクリートを引っ掻き、爪の先がく軋む。
。 夫には、私に話をかけるがいくらでもあった。 言、「会いたい」と、あるいは「すまない」と、メール本送るすらあったはずだ。 識があったのなら。 声がせたのなら。
夫は、それをしなかったのだ。 ぬ際になっても、私と向きう勇気を持てず、義妹の「でらせる」という都のいい先延ばしに逃げ込んだのだ。
、私が捧げてきたの結末が、これだった。 夫にとって、私は最に顔を見たいですらなかった。 ただの、向きうのが億劫な、都の悪い。
「お母さん……ってよ、お母さん……」 美穂が泣きながら私の肩を揺さぶる。 だが、そのの温もりが、今はひどく気悪く、かった。
「……触らないで」
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「え……?」
「触らないで、美穂」 私はちがり、娘のをたく払いのけた。 自分でも驚くほど、く、乾いた声だった。
美穂が弾かれたようにずさりし、傷ついた顔で私を見つめた。 傷ついているのは、あなたではない。 裏切られたのは、私だ。
「もういいわ。帰りなさい。あちらの『族』が待っているでしょう」
「お母さん、違うの、私は……!」
美穂の言葉を聞く気力は、もう滴も残っていなかった。 私は背を向け、斎の駐へと歩きした。 パンプスの踵が、乾いたアスファルトを叩く音だけが響いていた。
斎の敷をようとした、そのときだった。
「佐藤さん」
く、落ち着いた声が、たいに乗って背に届いた。
ち止まり、振り返る。 灯の暗いオレンジののに、あの男がっていた。 直だった。
コートも着ず、喪のスーツ姿のまま、息をく吐きしている。 彼のには、さく折りたたまれた枚のいが握られていた。
「何の用ですか」 私はを殺した声で言った。 「私はもう、あなたたち族に関わる気はありません。美さんにもそう伝えてください」
直は線を逸らさず、まっすぐに私を見つめていた。 その瞳の奥にあるは、美の浅ましさとも、美穂の怯えとも違っていた。 ひどく静かで、どこかく痛んでいるような目だった。
「母は」 直がをいた。
「母の佳代は、あの席に座りたくて座ったわけじゃありません」
「……どういうですか」
「あけみ叔母さんに、脅されたんです。