"夫の死後、最後のお別れすら奪われた私" 第4話
典? いらないわよ、あんたのおなんて。お兄ちゃんの遺産も、実のも、全部あちらの直くんに継いでもらう筈になってるから。あんたに渡すものなんて、円もないのよ」
「……健さんは」 私は震える声で、美の目を見据えた。 「健さんは、本当にそう言ったの?」
「当たりじゃない。ぬ際まで、佳代さんに申し訳なかったって泣いてたわよ。あんたのことなんて、言もいさなかったわ」
美はそう吐き捨てると、親族控の引き戸をピシャリと閉めた。
廊には、私だけが取り残された。 蛍灯のいが、リノリウムのを虚しく照らしていた。
だが、私はそのまま帰る気にはなれなかった。 帰れるはずがなかった。
斎の裏、皿が置かれた狭い通で、私は待った。 たい枯らしが、喪のいストッキング越しに首を締めげる。 の覚は疾うになくなっていた。
分ほど経った頃、控の裏がき、美穂がでてきた。 には、親族に配られた仕し弁当の袋を持っていた。
「美穂」
私の声に、美穂は肩をねさせ、ち止まった。 周囲を見回し、誰もいないことを確認してから、恐る恐る私にづいてきた。
「……お母さん。まだ、いたの」
「待ってたのよ」 私は娘の目をまっすぐに見つめた。逃げを作らないように。 「説して。
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どうして美穂があの席に座っていたの。あの女のは誰? 直さんっては、誰なの」
美穂は唇を噛み締め、俯いた。 黒いコートのポケットに両を突っ込み、を縮めている。
「……ってたのね?」 私の問いに、美穂の肩がさく揺れた。
「……うん」
蚊の鳴くような声だった。 だが、その言は、私の胸の真んに鉛の弾を撃ち込むのに分だった。
「いつから?」
「……ヶ、」
「ヶ……? あなたの結婚式の、直じゃない」
「うん……」 美穂はぽろぽろと涙をこぼし始めた。 「お父さんに、呼びされたの。結婚祝いを渡したいからって、ホテルのラウンジに……そしたら、直さんがいたの」
美穂の告が、途切れ途切れにの空気に零れ落ちていく。
健さんは、娘の結婚をにして、どうしても男を引きわせたいと言ったのだという。 、度も会わずに放置してきた息子。 その息子が、自分の妹にあたる美穂に会いたいと言っているのだと。
「最初……すごく怖かったよ」 美穂はをすすりながら言った。 「いきなりお兄ちゃんだなんて言われて、わかんないし、お父さん何考えてるのってったよ。でも……直さん、すごく優しくて……」
直は、突然現れた父親の勝な振るいを責めることもなく、美穂の結婚をから祝福してくれたのだという。 居への引っ越しの際、いを運ぶのを伝ってくれたのも直だった。
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優しくて、頼りがいのある、の兄。 っ子として育った美穂にとって、そのは急速にきなものになっていった。
「お父さんがね、言ったの」 美穂は私の顔を見ようとせず、面を見つめたまま言った。 「『美穂、頼むから由美には言わないでくれ』って。『あいつは真面目だから、今このことをったら耐えられない。美穂の結婚式が無事に終わって、落ち着いたら、俺からちゃんと座して話すから』って……」
「……だから、黙っていたの?」
私の声は、ひどくたくなっていた。 りを通り越して、の芯が凍りついていくようだった。
「お父さんが、自分で話すって約束したから……! 私が言ったら、お母さん、お父さんと喧嘩になるでしょ? 結婚式のに両親が揉めるのも嫌だったし……直さんも、『お母さんを傷つけたくない』って言ってたから……!」
「じゃあ、美穂」 私は歩、娘に詰め寄った。 「健さんが、こうやって急にんでしまったら、どうするつもりだったの?」
美穂の息が止まった。
「私が何もらないまま、夫のもらされず、葬も終わって、遺族席に別の妻が座っているのを……私は今、この所で初めてったのよ。あなたが黙っていたせいで!」
「ごめんなさい……! ごめんなさい、お母さん……!」 美穂はそのにしゃがみ込み、顔を覆って泣きじゃくった。
「お父さんが、こんな急にいなくなるなんてわなかったの……! 先週まで、普通に話せてたのに……!」
先週? 私のが、その奇妙な言葉を拾いげた。