"妊娠十二週、民政局前の裏切り" 第1話
胸の奥でさくねる命の気配を確かめるように、唐予はえ切った指先をそっと腹部へと滑らせた。元にある鞄のには、産婦科で渡されたばかりの超音波検査の写真が切に収められている。妊娠週。さく、しかし力い拍を告げるが、黒の印画に鮮に刻まれていた。というい歳、どれほど待ち侘び、どれほど涙を流してきたことだろう。結婚記である今というに、この奇跡を伝えることができる。そううだけで、の澄んだ気すらよいぬくもりにじられた。夫である陸衍淮から「民政局ので待っていてほしい」と連絡を受けたとき、彼女は疑いもしなかった。仕事にかまけて記を忘れがちだった彼が、ついに自分へのサプライズを用してくれたのだと信じ込んでいた。
民政局のな正面階段の脇に佇みながら、予はき交う々の姿をぼんやりと眺めていた。くを通り過ぎるスーツ姿の男女が、彼女の横顔を認めて声で囁きっているのがに届く。
「ねえ、見て。あれ、陸総の奥様じゃない? どうしてこんな所にでっているのかしら」
「陸総と婚するなんてこと、あるわけないわよね。あの陸総が奥様をどれほど溺しているか、らないはいないもの」
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「そうよね。このだって、奥様がをしたに、陸総は夜にもかかわらず自用のヘリコプターを配して方から特効薬を取り寄せたって話よ」
「でも、噂では奥様はまれつき妊娠しにくい体質らしいじゃない。陸総は彼女を守るために、族からの激しい圧をに背負って、世継ぎを持つことすら諦めたって聞いているわ。もし万がにも婚なんてことになったら、奥様のは完全に壊れてしまうんじゃないかしら……」
々の憐憫と羨望が入り混じった囁き声をにしながら、予はかすかに元を緩めた。世が何を言おうと、の絆は揺るがないはずだった。彼が注いでくれた無数の優しさ、夜を徹して病してくれたのひらの温もり、それらすべてが真実だと信じていたからだ。
しかし、そのささやかな幸福の予は、背からづいてきたい音によって無残にも打ち砕かれることとなった。
「……待たせたね」
く、どこか掠れた男の声が響いた。予が弾かれたように振り返ると、そこには見慣れた仕ての良いコートを着た陸衍淮の姿があった。だが、彼の隣には、見らぬ若い女性がぴったりと寄り添っていた。女性はふっくらとし始めた腹部を両でおしそうに支え、わざとらしく眉をひそめてさな呻き声を漏らした。
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「ごめんなさい、衍淮……急につわりがひどくなってしまって。だって、お腹の赤ちゃん、もう週に入ったところなんだもの」
女性の甘えたような呟きを聞いた瞬、予の界が歪んだ。週。自分が宿した命と、寸分違わぬ週数。予は喉を詰まらせ、指先を刻みに震わせながら、夫の顔を凝した。
「衍淮……これ、体どういうことなの?」
陸衍淮は予の激しく揺する瞳からわずかに線を逸らし、にした類のファイルを胸元から引き抜いた。彼の指先には、徹な現実を告げる表題が印刷されたが握られていた。
「阿予……婚しよう」
その言が、乾いたアスファルトのに無慈に落ちた。予の呼吸が止まり、全の血が元から引いていく。
陸衍淮は予の蒼な顔を見つめ、言い訳を急ぐように歩いを詰めた。
「誤解しないでくれ。君こそが、俺のにおいて唯の正妻なんだ。俺はただ、彼女の体を借りて陸の世継ぎを産ませるだけに過ぎない。医者は言っただろう、君は妊娠しにくい体質だと。族からの圧がきすぎて、俺はもう耐えられないんだ。だから……」
「だから……あなたは、の女に子供を産ませるを選んだの?」
予の声はかすれ、の音にかき消されそうだった。
陸衍淮は苦渋に満ちた表を作り、眉根を寄せて予の肩にを置こうとしたが、予が反射にを引いたため、そのは虚しく空を切った。
「もし君とのに子供ができていたなら、どんなに良かったか……! だが阿予、産めないのなら、無理して産まなくていいんだ。