"22年育てた継娘の挙式前夜、親族席を奪われた母" 第6話
夫はロビーで、悠太くんのご両親に「妻は急なで来られず、実母が駆けつけまして」と、調子のいい嘘を並べてているに違いない。
破滅の秒針は、すでに音をててんでいる。 彼らが番くびがり、最も幸福だと酔いしれるその瞬を、私はアトリエの静寂ので待つことにする。
私は度もろを振り返ることなく、駅へと向かって歩きした。
正午を過ぎた頃、私は駅のアトリエで、さな鍋に湯を沸かしていた。
具材は豆腐とネギだけ。 汁を丁寧に取り、噌を溶く。 パックからした米を温め、梅干しを粒乗せる。
ぶりに、自分のためだけに作った昼だった。
いつもなら、夫の隆之が好む濃い付けにわせ、美咲の栄養バランスを気にしながら品も品も並べていた。 「くしろよ」「今のおかず、これだけ?」という苛った声に急かされ、台所にち尽くしたままめた残り物を胃に流し込んでいた。
啜った噌汁は、驚くほど澄んだがした。 部のには誰の声も、誰かの嫌な音もない。 の柔らかなが、綺麗に掃き清められたに角いを落としている。
その静寂を破るように、元のスマートフォンがく震えた。
画面を見ると、林悠太くんの名。 昨夜私が送った欠席のメッセージに対する返信だった。
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『真理子さん、昨夜はメッセージを読めず申し訳ありませんでした。朝、控に入って初めて美咲から「真理子さんはい邪で寝込んでいる」と聞かされました。 でも、何か違があります。真理子さん、本当に丈夫ですか? 何か僕に隠していることはありませんか?』
計を見ると、分。 挙式が終わり、そろそろ披宴会への入が始まる刻だ。
私は返信を打たなかった。 ただ、画面を見つめたまま、静かに息を吐いた。
悠太くんは、嘘に気づき始めている。
それも無理はない。 彼は先、美咲と緒にこのアトリエへ来ていた。 美咲のドレスの丈の微調を、私が直接作業で直してあげたときのことだ。 悠太くんは、針を持つ私の荒れた指先をじっと見て、「美咲のために、本当にありがとうございます」とくをげてくれた。
そのとき私が渡した、あのい麻のハンカチ。 「美咲のくなったおばあちゃんので縫ったの。当の涙はこれで拭いてね」 そう伝えたときの悠太くんの温かい笑顔と、美咲のどこか落ち着かない、泳ぐような線を、私は今でも鮮に覚えている。
そのハンカチを、美咲は今朝、あのに置いていった。 実母である由紀子さんが用したという、名ブランドのレースのハンカチを胸元に忍ばせて。
スマートフォンの画面が再び暗転した。
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私はめかけた米をに運び、ゆっくりと噛み締めた。
台はったはずだ。 嘘で塗り固められた華やかな宴が、今まさに、幕をけようとしていた。
港区の級ホテル、最階の披宴会。
のシャンデリアが眩いを放ち、管弦楽の演奏が華やかに響き渡っていた。 円卓には贅を尽くしたフランス料理が並び、美咲の職関係者や友たちの歓声が満ちている。
砂の隣、最も座にある婦親族席。 そこには、黒留袖にを包んだ由紀子と、満面の笑みを浮かべた本隆之が並んで座っていた。
「いやあ、由紀子。今の美咲は本当に綺麗だな。おの若い頃に瓜つだ」 隆之が等なシャンパンを喉に流し込み、目尻をげて囁いた。
由紀子は緊張した面持ちでグラスを指先で弄びながら、さく頷いた。 「ええ……本当にのようだわ。まさか美咲のれ姿を、こんな特等席で見届けることができるなんて」
由紀子の胸には、誇らしさと、ほんのしの申し訳なさが渦巻いていた。 美咲が歳のときにをて、。 突然の再会を受け入れてくれた娘の優しさに甘え、こうして『婦の母』として座っている。
隆之からは事にこう聞かされていた。 「真理子には俺からちゃんと話してある。あいつはもともと勢のが苦だし、実の母親に席を譲るのが筋だって、笑顔で納得してくれたよ。
だからおは堂々としていればいい」