"22年育てた継娘の挙式前夜、親族席を奪われた母" 第5話
寝から起きてきた夫は、仕てのいい礼に腕を通しながら、満そうにを鳴らして卓についた。 昨夜、妻のを根底から否定するような宣告をしたことなど、綺麗さっぱり忘れているかのような顔だった。
「おい、真理子。俺の礼のネクタイ、アイロンが甘いんじゃないか?」
首元を触りながら、尊に注文をつける。 私は台所から振り返り、静かにをげた。
「入りに掛け直しておきましたよ。そこのハンガーにあります」
「ふん。まあいい。美咲はもう美容院へ向かったぞ。悠太くんのでな」
夫は噌汁を啜り、鮭のを箸で崩しながら、嫌で喋り続けた。
「今は丁になるからな。由紀子の親戚筋も何か来るらしい。向こうの親戚には、おが体調良で急遽欠席したと伝えておくから、余計な話とかかけてくるなよ」
嘘で塗り固められた完璧な筋き。 病欠という便利な言い訳で私を隔し、本物の族としての体裁をえる。
「ええ、わかりました。どなたにもご連絡はいたしません」
私のあまりにも素直な返答に、夫はちらりとこちらを見た。 しだけ拍子抜けしたような、審そうな目。
「なんだ、やけに聞き分けがいいじゃないか。昨の今で、もっと愚図るかとったがな」
「美咲の事なですから。私の儘で台無しにするわけにはいきませんもの」
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夫は勝ち誇ったように笑った。 「そうだ。その謙虚さが最初からあれば、おももっとげがあったんだがな。まあ、留守番くらいはしっかりやっておけ。夕飯は向こうでべてくるから、準備はらんぞ」
そう言って、夫は最の米をに放り込み、ちがった。 姿見のでネクタイを締め直し、をひと吹きする。 代半とはえないほど浮かれた取りで、玄関へと向かっていく。
靴を履き、ドアノブにをかけた夫が、振り返りもせずに言った。
「じゃあ、ってくる。鍵は閉めておけよ」
バタン。
い玄関ドアが閉まり、カチャリとオートロックの属音が響いた。
静寂が、のを満たした。
私は卓に残された、夫の空になった茶碗と噌汁の椀を見つめた。 、毎毎、洗い続けてきた器。 たりとも欠かさず、あの男の健康と体面を支え続けてきた常。
私は台所の流しへき、それらの器を洗わなかった。 ただの滴も、を流さなかった。
エプロンをし、綺麗に畳んで調理台のに置く。 そして、あらかじめ着替えておいたシンプルな濃紺のワンピースのに、のトレンチコートを羽織った。
元にあるのは、キャリーケースつと、黒いレザーのブリーフケース。
ブリーフケースのには、昨夜理したすべての類が入っている。
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・このの登記事項証 ・に私が支払ったリフォーム費用、百万円の領収と振込細 ・夫の与座へ過にわたり活費として補填した、総額百万円の送記録 ・そして、今朝番で私の代理となってくれる女性弁護士の元へ届くよう配した、婚姻費用分担請求および財産分与請求の委任状
赤のトラックは、夫がをる分にすでに到着し、私の業用ミシンとつの段ボール箱をアトリエへと運びしてくれていた。
このに残された私の私物は、もう何つない。 私の気配だけが、綺麗に削ぎ落とされている。
リビングのローテーブルの央に、桐の箱を置いた。 美咲のために縫った、あのい麻のハンカチが入った箱。 そのに、今朝いた通のを添える。
表きには、何もかない。
私は玄関へ向かった。 靴箱の、いつも夫のの鍵が置かれている定位置に、私のの鍵をカチャリと置いた。
もう度と、私がこの鍵でこのドアをけることはない。
にると、抜けるようなの青空が広がっていた。 たいが頬を撫で、胸の奥くまで澄んだ空気が流れ込んでくる。
計を見る。 午分。
今頃、美咲は結婚式の控で、純のウェディングドレスにを包んでいるはずだ。
そして由紀子さんは、留袖をに纏い、誇らしげに『婦の母』の控へ向かっていることだろう。