"22年育てた継娘の挙式前夜、親族席を奪われた母" 第4話
「由紀子は昔から華やかな女だったからな。真理子みたいにで所帯染みた女とは違う」
夫のからそんな無礼な言葉がても、私は美咲の笑顔のために耐えた。 実の親に会えて嬉しいのだろう。今だけだ、と。
けれど、変化は確実に、そして残酷な速度で庭を蝕んでいった。
美咲は、私を「お母さん」と呼ぶ回数が目に見えて減っていった。 きりのときはまだ呼ぶものの、夫がいるや、で話をかけてくるときは、自然に「ねえ」と濁すようになった。
そしてヶ、由紀子さんを交えた事会に夫と美咲がかけた夜のこと。 帰宅した美咲が、リビングでお茶を淹れていた私に向かって、何気なく言ったのだ。
「真理子さん、の朝ごはん、フレンチトーストにしてくれない?」
……真理子さん?
湯呑みを持つ指先が、ピシリと止まった。
美咲は自分の失言にすら気づいていない様子で、スマホの画面をスクロールしていた。 向こうの席で靴を脱ぎ捨てていた夫も、咎めるどころか、さも当然といった顔でテレビを見ていた。
、私がを測り、お弁当を作り、抱きしめてきた娘のからた、「真理子さん」。
喉の奥にい塊が込みげてきて、私は台所へ逃げ込んだ。 換気扇ので、震えるで元を押さえた。
悔しかった。 けなかった。
でも、そのときの私はまだ、自分に言い聞かせていたのだ。
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『実の母親が見つかって、美咲も混乱しているんだ』 『私がここで波をてたら、美咲が板挟みになってだ』 『私が歩引けば、この子の結婚式は平に迎えられるんだ』
私のその『物分かりの良さ』こそが、にとっての格好の踏み台だったのだと、今なら痛いほどよくわかる。
引きがれば引きがるほど、は私の領をで踏み荒らしてきた。
結婚式のドレス選び。 最初は私と緒にく約束をしていたのに、になって「由紀子さんがセンスいいから、由紀子さんとくことになった」とドタキャンされた。
引き物の選定。 私がアドバイスした老舗のタオルギフトは「古臭い」と蹴され、由紀子さんが勧めたブランドの菓子に変更された。
そして、極めつけが先週のことだ。 結婚式の席次を決める打ちわせから帰ってきた夫が、玄関で靴を脱ぎながら言った。
「真理子、おは当、裏方に徹してくれよ。由紀子が親族代表として挨拶する筈になってるからな。おが会をウロウロすると、親戚連が気を遣うだろ」
裏方に徹しろ。 母親として育ててきたを、まるで雇われの政婦かのように扱う物言い。
そのとき、美咲は夫のろで申し訳なさそうな顔をしていた。 だから私は、美咲自は本からそう望んでいるわけではない、夫が勝に誘導しているのだと、のどこかで信じようとしていた。
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愚かだった。
昨夜、私の部に入ってきて、「親族席に座らないで」「は由紀子さんに向けて読む」と言い放った美咲の目は、父親に操られた操り形の目ではなかった。
あれは、自分の都のいいように世界を塗り替えようとする、傲なの女の目だった。
『真理子さんなら、許してくれる』 『真理子さんなら、私が何をしても、最には笑って受け入れてくれる』 『だって、あのは私のお母さんなんだから』
無条件のを、都のいい免罪符として消費されていたのだ。
に入らないかもしれない母の嫌を取るために、絶対に放さないと確信している育ての母を踏み台にする。 それが、私がかけて育てげた娘の、本当の姿だった。
夜がみ始めていた。 の空が、青から淡い茜へとグラデーションを描いていく。
私は作業机に向かい、枚の便箋にペンをらせた。
な罵倒は切かない。 み言もかない。 ただ、事務で、徹で、取り返しのつかない事実だけを、丁寧な跡で綴っていく。
き終えたを、あのいハンカチが入った桐の箱のに、静かに置いた。
朝の。 リビングには、いつもと全く変わらない朝が並んでいた。
焼き鮭、だし巻き卵、豆腐とわかめの噌汁、炊きたての米。 夫の好物ばかりを揃えた、完璧な朝。