"22年育てた継娘の挙式前夜、親族席を奪われた母" 第3話
とい込んでいる。 確かにと建物の名義は夫のものだ。
だが、あの男は法律をらない。 婚姻期に妻の固財産から投じられた規模リフォーム費用は、建物の価値を維持・増加させた貢献分として、財産分与における清算対象になる。 その額と証拠を、私は円単位で几帳面にファイリングしてあった。
さらに、夫名義の通帳のコピー。 夫が「遣いがりない」と騒ぐたびに、私の座から活費の補填として夫の座へ送していた履歴。
パラパラとページをめくる指先に、迷いは微もなかった。
美咲の幼い頃の写真てが、机の片隅に置かれている。 歳の美咲が、まだ私にをかず、警戒した目でカメラを睨みつけている写真。 あの頑なだったさなが、いつのにか私のを握り返すようになり、「お母さん」と呼んでくれるようになるまで、どれほどの夜を越えてきたか。
私はその写真てに触れなかった。 持っていく気も、壊す気もない。 それは美咲の過であって、これからの私の未来には必のないものだ。
荷物を詰め終えた段ボール箱を、部の隅に積む。 の朝番で、懇にしている赤の配送業者に頼み、駅から徒歩分の所にある私の個アトリエへ運び込ませるはずは、すでにえてあった。
アトリエといっても、古い雑居ビルのを改装したさな作業だ。
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けれどそこには、誰にも邪魔されない私のがあり、夜をかせるだけの簡易ベッドもある。
計の針は、午を回っていた。
寝からは、夫のきないびきが聞こえてくる。 、自分がどんな顔をして主賓席に座るか、どんな美い酒がめるか、そんな呑気なでも見ているのだろう。
私は洗面台へき、たいで顔を洗った。 鏡に映る自分の顔を見る。 目元には齢相応の皺があり、決して若くはない。
けれど、その瞳は驚くほど澄んでいた。
、のの黒子としてきるために、私は自分自を殺し続けてきた。 夫の嫌を損ねないように。 継娘が肩の狭いいをしないように。
でも、もう終わりだ。
私はスマホを取りし、画面をタップした。 件のメッセージを、美咲の婚約者である林悠太くんに送信する。
内容は極めて簡潔に。
『悠太さん、夜分遅くに申し訳ありません。の式ですが、庭の事により、私は席を辞退することになりました。美咲のこと、どうぞよろしくお願いいたします』
送信ボタンを押すと、画面の向こうへ吸い込まれるように消えていった。
悠太くんは、誠実で聡な青だ。 私がどれほど美咲の結婚準備に関わってきたかも、このハンカチをどんないで縫っていたかも、彼だけはっている。
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このいメッセージが、の披宴会にどんな波紋を広げるか。 夫と美咲が描いた『完璧で都のいい族の絵空事』に、どんな亀裂を入れるのか。
私はく息を吐き、静かにスマホをポケットにしまった。
美咲が変わってしまったのは、本当にここ最のことだった。 ヶ。実母である由紀子さんから、美咲のSNSを通じて突然連絡が入ったあのから。
「お母さん、聞いて! 産んでくれたお母さんから連絡が来たの!」
あのの美咲は、興奮で頬を潮させてリビングにび込んできた。 歳のの女性が、まるで宝物を見つけた子どものように目を輝かせていた。
私はそのとき、揺を押し殺して笑顔を作った。 「そう。よかったじゃない。美咲がずっと気にしてたこと、ってたから」
嘘ではなかった。 母として、子どもが自分のルーツをりたいとう権利を奪うつもりはなかった。 会いたいなら会えばいい。 過の空を埋めたいなら、気の済むまで話せばいい。
、私が注いできたは本物だという自負があったからこそ、母の登に怯える必などないとっていた。
甘かったのだ。
最初のランチから帰ってきた美咲は、興奮気に由紀子さんの話をした。 「すごく綺麗なだった。都内の広告代理でずっと働いてて、着てるも洗練されてて、私にそっくりなの」
夫の隆之も、最初は気まずそうにしていたが、美咲が実母の況を嬉しそうに語るのを聞くうちに、徐々にのを伸ばすようになった。