"22年育てた継娘の挙式前夜、親族席を奪われた母" 第1話
アイロンの蒸気が、シューッと音をてて消えた。
元にあるのは、真っな麻のハンカチ。 の結婚式で、娘の美咲が涙を拭うために、私が何もかけて端をかがり、仕げたものだった。
は、美咲の実の祖母——私のくなった母が遺してくれた等な反物から裁ち落としたもの。 これで美咲のれ台の準備は、すべてったはずだった。
「お母さん、の親族席なんだけど……」
トントン、と慮がちにノックして部に入ってきた美咲が、私の顔を見ずにをいた。
「本当のお母さんが、座ることになったから」
瞬、の奥でキーンと甲い音が鳴った。 臓がトクンと嫌なね方をする。
……本当の、お母さん?
半から連絡を取りっていた、美咲の実母・由紀子さんのことだろう。 美咲が歳のときに婚してをていき、それから、養育費も度も払わずに音信通だった。
「そう。よかったわね。ずっと会いたかったんでしょうし、由紀子さんもれ姿を見たいでしょうから」
私はアイロンの源を落とし、できるだけ柔らかい声で笑おうとした。 親族席に席をつ追加して、母と育ての母ので座る形にするのだろう。そうったのだ。
けれど、美咲のから続いた言葉は、私の像を遥かに超えていた。
「だから……あなたは、親族席には座らないでほしいの」
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部のの空気が、凍りついた。
……は? え、待って。どういうこと?
座らないで、って。 じゃあ私はどこに座るの? 般の友席? それとも——。
私の背で、腕を組んで様子を見ていた夫の隆之が、当たりのようにを挟んできた。
「実の母親がわざわざ来てくれるんだぞ。血の繋がっていないおが慮するのは、当然の気遣いだろうが」
夫の元には、っすらと嘲笑のような笑みが浮かんでいた。 申し訳なさなど微もない。 まるで『来の悪い部に理を説いてやっている』とでも言いたげな、いつもの偉そうな声。
「美咲の相の悠太くんのご両親にもな、本物の母親を紹介したほうが世体がいいに決まってる。おがにしゃばったら、向こうの親族だって混乱するだろ」
しゃばる? 私が?
喉の奥がカラカラに乾いて、声がなかった。 指先がたく張り、アイロンの取っを握ったままけない。
。 美咲が歳のときから、をせば夜通し背をさすり、毎朝に起きてお弁当を作り、だらけの体操着を洗いしてきたのは、誰だったのか。
だが、獄はそれだけでは終わらなかった。
「それと、これ……の席次表とプログラムなんだけど」
美咲が申し訳なさそうに線を泳がせながら、枚の質なを私のに差しした。 箔で縁取られた、結婚披宴の表。
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『婦の母 由紀子』
そこには確かに、実母の名が印刷されていた。 私の名は、のどこを探してもしなかった。 まるで最初から、このに本真理子というなどしていなかったかのように。
「……私の名、どこにもないのね」
掠れた声で呟いた私に、美咲はさらに残酷な言葉をねた。
「あのね、披宴の最に『両親への』を読むでしょ」
美咲は私の目を見ない。 自分の元だけをじっと見つめている。
「育ててくれてありがとうって伝える……あれ、由紀子さんに向けて読むことにしたから」
呼吸が止まった。 目のが真っ暗になるって、こういう覚を言うのだろうか。
あのに何がかれているか、私はっている。 美咲が推敲を伝ってほしいと、数にきを見せてくれたからだ。
『毎欠かさず作ってくれた梅干しのお弁当』 『受験の夜、部のドアのにそっと置いてくれた温かいココア』 『肺炎で入院したとき、週ずっとパイプ子でを握り続けてくれた温もり』
全部、私と美咲の記憶だった。 由紀子さんは、美咲にお弁当を度も作ったことがない。 夜のココアを淹れたことも、病院のたいで夜をかしたこともない。
美咲は、私から母親の席を奪うだけでは飽きらず、私と積みねてきたの歳そのものを、実の母親に横流ししようとしていた。
私というを透にして、そのの成果だけを、綺麗に別の女に着せ替える。