"十三通の退職届と百七回の着信" 第4話
夕方に予約台帳を確かめていて、私はもう1枚めくったを止めた。
11と12の欄に鉛でく保留とかれたが7つある。
どれも会社の宴会だ。
鉛の字は静さんのものだった。
私は帳にいた静さんに台帳を見せた。
「これは誰の指示ですか?」
静さんはし申し訳なさそうに答えた。
「板さんに、そういておくように言われまして。」
静さんは鉛の跡を指でなぞった。
私が眉をひそめた。
「保留って何の保留ですか?」
静さんは首を横に振った。
「私にも分かりません。ただ9の終わり頃から増えました。」
7つとも15から25の宴会だった。
のにとっては1番美しい仕事になる。
それを板のが保留にする理由が私には見つからなかった。
私は顔をげて静さんに聞いた。
「静さん、井さんはどうして辞められたんですか?」
静さんは伝票を揃えるを止めた。
静さんは目を伏せて言った。
「私のからは申しげにくいことです。」
それだけだった。
帳の庫の扉が半分いていた。
静さんがを見ている。
私が背から声をかけた。
「静さん。」
静さんは驚いた顔で振り返り、慌てて庫を閉めた。
静さんはくをげた。
「すみません。ちょっと確かめておりました。」
静さんは庫のからかない。
私が歩づいた。
「何をですか?」
静さんは真っ直ぐに私の目を見た。
広告
「先代のものです。綾乃さんが代表におなりになったらお渡しします。」
そのの夕方、私は司法士の事務所へき、翌の続きの類を受け取った。
帰りの川沿いにののかりが見えた。
で客はいないのに、板の窓だけが遅くまでるかった。
で何が何を話しているのか、からは分からない。
翌朝、板に黒田さんがいなかった。
藤堂さんはまな板から目をさずに言った。
「板は所用で昼からてきます。」
板が仕込みの朝にいないのは、私が戻ってきてからは1度もなかったことだ。
私は昼に司法士の事務所へく用があったので、それ以は聞かなかった。
107、私はのの代表になった。
司法士の事務所で類に判を押しただけの15分ほどの続きだ。
表にると空がかった。
父がくなって4が過ぎたところで、まだ実というものがない。
へ戻ると、静さんが帳で待っていた。
静さんは私を迎えるように言った。
「綾乃さん、お渡しするものがあります。」
庫のにしゃがんで、静さんは布に包んだものをした。
学ノートだった。
表が垢で黒くなっている。
真んに父の字で「の入り」とだけいてあった。
静さんはノートを両で持ったまま言った。
「先代がずっとつけていたものです。わしが見とるからおは何も言わんでいい。
広告
30そう言われてまいりました。」
静さんは布を畳んで膝に置いた。
静さんは静かな声で付け加えた。
「は私はけておりません。先代がそうおっしゃいましたので。」
私はノートを受け取った。
みの割に軽い表に指をかけて、それから止めた。
私は静さんを見て言った。
「これはで読みます。」
父がくなってすぐに読むものではない気がした。
私はノートを帳の引きしに入れて鍵をかけた。
あのいていれば話は違っていたのだろう。
ノートをしまってから、私は静さんに聞いた。
「父はあれを毎いていましたか?」
静さんは湯呑みに茶を注ぎながら答えた。
「が入ったと辞めただけです。」
静さんは湯呑みを私に差しした。
私が聞き返した。
「辞めた?」
静さんはく頷いた。
「はい。辞めたに必ず1おきになりました。き終わるまで帳からてこられませんでした。」
私はその、のの名を覚えておくための記録だろうとった。
老舗のにはそういうものがある。
父はの顔を覚えるだった。
私はお茶にをつけてから聞いた。
「静さん、うちはこの5で何辞めましたか?」
静さんはをきかけてまた閉じた。
静さんは目を逸らして答えた。
「数えたことはございません。」
そのの午は静さんと2で予約台帳を広げた。
10の残りに法事と会が7件、11に会社の宴会が11件、12は26まで29件。
これはきい席が続くので、2ヶの、座敷はほとんど毎どこかがいている。