"十八年間消えていた夫の保護者席要求" 第9話
「写真は撮りません」
美咲は遮るように、静かに、けれど周囲のざわめきを切り裂くような声で言った。
健の眉に、苛ちのがった。 線がチラチラと、周囲の保護者たちやカメラマンへと泳ぐ。 この男が今最も恐れているのは、娘に拒絶されることそのものではなく、「たくあしらわれている姿をに目撃されること」なのだ。
「美咲、頼むから声をさないでくれ……! しだけでいいんだ、1枚撮るだけで済む話だろ? 会社の広報にももう話を通してあるんだ。俺のメンツってものがあるんだよ! 娘の卒業式に来て、写真の1枚もないなんて、同僚に何て言えばいいんだ!」
世体。 会社でのプライド。 見栄。
美咲はゆっくりと息を吸い込み、健の目を真っ直ぐに見据えた。
「お父さん。あなたは今、周りのにどう見られるかだけを配していますね」
健の息が止まる。
「私が16歳の、あなたにメールを送った。私はただ、あなたが私に会いたいとってくれているのか、それだけをりたかった」
周囲の数の保護者が、異様な空気に気づいてを止めた。 健の顔から、さっと血の気が引いていく。
「あなたは私のを隠し、無した。そして今、私が国学に受かった途端、自分の成功の証拠として私を利用しようとしている」
美咲は首を横に振った。
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「私のは、あなたの社内報の飾りじゃありません。この18、私の隣で緒に戦ってくれたのは、お母さんとおじいちゃんです。あなたには、この卒業証に指本触れる資格もない」
「美咲……!」
「束も、持って帰ってください。美さんにでもあげたらどうですか」
健の膝が、微かに震えていた。 抱えられたい束が、みっともなく傾く。 カメラマンの男が気まずそうに線を落とし、カメラのレンズキャップを閉めた。
「もう度と、私のに現れないでください」
美咲はそう告げると、健に背を向けた。 度も振り返ることなく、私の元へと歩み寄る。
「お母さん、おじいちゃん。帰ろ。お腹空いちゃった」
「……ああ、帰ろう。今はお赤飯を炊いてあるぞ」
父が美咲の肩を抱き、私たちは歩きした。 背で、健が力なく佇んでいる気配がした。 鳴り散らす気力すら奪われた男の、惨めで孤独な沈黙。 そのは、のかな差しのに溶けて、度と私たちの界に入ることはなかった。
*
数週。 桜が満を迎え、散り始めた4の初め。 美咲の部には、段ボール箱がいくつも積みげられていた。
学のキャンパスにいアパートへの引っ越し当。 際よく荷物をガムテープで留める美咲の横で、父が配そうにウロウロしている。
「美咲、米はちゃんと炊けるのか? 気炊飯器の使い方は覚えたか?」
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「おじいちゃん、もう何回も教わったよ。丈夫だってば」
美咲が笑いながら答える。 私は台所から、分けにした調料やレトルト品を段ボールの隙に詰め込んだ。
「着いたらすぐに連絡するのよ。無理して自炊しなくていいから、最初のうちは学でちゃんとべなさいね」
「お母さんまで。もう18歳なんだから、過保護すぎ」
そう言いながらも、美咲の瞳には柔らかなが宿っていた。
玄関先で引っ越し業者のトラックがクラクションを鳴らし、荷物が次々と運びされていく。 ガランとした部の真んで、美咲がふとち止まり、私に向き直った。
「ねえ、お母さん」
「ん? 忘れ物?」
美咲は首を振ると、私のまで歩いてきて、そっと両を広げた。 そして、私を力く抱きしめた。
「お母さん、これまで本当にありがとう」
胸の奥に、い塊が込みげてきた。 18分の夜が、馬灯のように駆け巡る。 夜泣きする美咲を抱いて歩いた暗い部。 をした美咲を背負ってったの。 残業帰りのスーパーで、値引きシールのお惣菜をカゴに入れながら流した涙。
「お母さん。これからはね、自分のためにきてね」
美咲が私の元で囁いた。
「私のためにする活は、今でおしまい。お母さんも、やりたかったこと、全部やって」
私は美咲の背にを回し、涙を堪えながら何度も頷いた。
「うん……。うん、わかった。美咲も、いっきり楽しんでおいで」
美咲が腕を解き、笑顔を向けたその、美咲のポケットのでスマートフォンがく震えた。