"十八年間消えていた夫の保護者席要求" 第8話
「お父さん。あなたが私を捨てたんじゃない。私が、あなたを父親失格だと判断したんです」
『待て、美咲! 頼むから話を……! 俺だって反省してるんだ、卒業式くらい――』
「学の保護者席は、2席しかありません」
美咲は元夫の懇願を遮り、たく言い放った。
「私の席に座るのは、私がまれた、分娩ので祈ってくれたおじいちゃんです。あなたがスタジアムでビールをんでいたに、私の命を抱きしめてくれたたちです」
ツツツ、と通話が切れた。 美咲が、自らの指で通話終ボタンを押したのだ。
静まり返ったリビング。 美咲はスマートフォンをテーブルに置くと、く、い息を吐きした。 その肩が、微かに震えていた。
私はたまらず美咲を抱きしめた。 18分の孤独と、16歳のの美咲の痛みが、私の胸を激しく締め付けた。
「美咲……ごめんね。お母さん、何もらなくて……」
美咲は私の背にを回すと、子どものように私の肩に顔を埋めた。
「ううん。言わなくてごめんね、お母さん。でもね、これで全部終わったよ」
美咲の声は、澄んでいた。 迷いも、未練も、すべて吐きしたの、清々しい静寂。
窓のを見やると、の空がみ始めていた。 夜けのが、リビングのをゆっくりと照らしていく。
美咲は顔をげると、涙を指先で拭い、さく笑った。
「お母さん。式まであと3だね。
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おじいちゃんのスーツ、クリーニングから引き取ってこなきゃ」
3のたい朝だった。 の正へ続く坂には、咲き始めの桜の蕾が固く結ばれていた。
体育館のは、底えのする空気が張り詰めている。 パイプ子が規則正しく並ぶ保護者席。 私の隣には、調した紺のスーツにを包んだ父、田誠が座っていた。 73歳になった父の髪混じりの、膝のに置かれた節くれだった太い。 美咲の入学式も、修学旅の見送りも、部活の最の会も、いつもこのが美咲の背を押してきた。
「真紀、美咲はどこだ」
父がし落ち着かない様子で、老鏡の位置を直しながら囁く。
「もうすぐ入ってくるよ。お父さん、ちゃんと見ててあげてね」
なピアノの伴奏が体育館に響き渡り、卒業たちが入してきた。 列の先く、胸に赤いコサージュをつけた美咲の姿が見えた。 背筋を真っ直ぐに伸ばし、を見据えて歩く姿。 18、私の胸ので真っ赤な顔をして泣いていたあのさな命が、自分ので歩歩、への階段を登っている。
卒業証授与式。 「総代、佐藤美咲」 名を呼ばれ、美咲が壇へがる。 から証を受け取り、く礼した美咲の横顔は、凛としていて、眩しいほどに誇らしかった。
隣で、父がハンカチを目元に当てていた。
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声をさずに、肩をさく震わせている。 私はそっと父の温かいに自分のをねた。 この温もりこそが、私たちの18のすべてだった。
*
式が終わり、庭は卒業と保護者たちの歓声と記撮のざわめきに包まれていた。 桜ののでクラスメイトたちと笑顔で写真を撮り終えた美咲が、卒業証の筒を抱えてこちらへ歩いてきた。
「お母さん、おじいちゃん!」
「美咲、本当におめでとう。派だったぞ」
父が破顔して美咲のを撫でる。 美咲は嬉しそうに目を細めた。
そのだった。 の脇、しれた植え込みのから、落ち着かない取りでづいてくるがあった。
仕てのいいチャコールグレーのスーツ。 胸元には華やかなチーフ。 両には、抱えきれないほどきなの薔薇の束。 佐藤健だった。
元には、プロ仕様のレフカメラを提げた見らぬ若い男を引き連れている。 会社の息のかかったカメラマンだろう。
健は私たちの姿を認めると、引きつった笑みを浮かべながらで詰め寄ってきた。
「美咲……! 卒業、おめでとう」
差しされた巨な束。 だが、美咲はそれを受け取らなかった。 抱えた証の筒を両で持ち直したまま、歩もかない。
「……来てたんですか」
ややかな美咲の声に、健の笑みがピキリと凍りついた。
「ああ、でずっと待ってたんだ。には入れなかったからな……。ほら、せめてので写真を撮ろう。カメラマンも連れてきたんだ。おと俺、で並んで証を持てば――」