"十八年間消えていた夫の保護者席要求" 第3話
私はどう答えるべきか、何も悩んでいた言葉を、できるだけ静かに渡した。
「美咲にもお父さんはいるよ。でもね、お父さんとお母さんは、緒に暮らさないを選んだの」
「どうして?」
「の問題よ。美咲が悪かったわけじゃないの。美咲はね、世界で番望まれてまれてきたんだよ。それだけは絶対に忘れないで」
私は元夫の悪を、美咲ので度も言わなかった。 アメリカでの倫も、養育費を踏み倒したことも、美咲が自分自を「されなかった子ども」だと呪ってしまうのを防ぎたかったからだ。 父親というを憎むことに、美咲の切なエネルギーを使わせたくなかった。
美咲はそれ以、父親のことをく聞かなくなった。 ただ、参観や部活の応援に私の父が来ると、誇らしそうに「うちのじいじ!」と友達に紹介していた。
その美咲が、3の、模試の判定を覆して最難関の国学に現役格したのだ。 格発表の、父と私と美咲の3で、所のさな寿司でお祝いをした。 ビールを杯だけんだ父が、美咲のを握って男泣きした。 美咲も笑いながら、ハンカチで父の涙を拭っていた。
あの温かいのどこに、あの男の入る余があるというのだろう。
*
「お母さん、誰からの話だったの?」
リビングの引き戸がき、美咲が入ってきた。
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には、卒業式で配る記品の名簿が握られている。 の制を着た美咲は、18のあのさな赤ん坊と同じだとは信じられないほど、真っ直ぐな瞳をしていた。
私は咄嗟にスマホを伏せた。 けれど、私の引きつった表を、美咲は見逃さなかった。
「……ううん、なんでもないの。勧誘の話」
嘘がなのは、昔からだった。 美咲はテーブルのに座ると、私の顔をじっと見つめた。
「お父さんでしょう」
臓が止まるかとった。
「え……?」
「声、聞こえてたよ。廊まで響いてたから。『父親なんだから席を用しろ』って」
美咲の声には、取り乱した様子も、激しいりもなかった。 ただ、の朝の面のように、静まり返っていた。
「美咲……ごめんなさい。気にしなくていいの。お母さんがちゃんと断ったから。卒業式には、予定通りお母さんとおじいちゃんでくからね」
私が慌てて取り繕おうとすると、美咲は静かに首を横に振った。
「お母さん。私、度あのに会ってみたい」
「……え?」
を疑った。
「会うって……健さんに?」
「うん。卒業式のに、で話をしてみたい」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。 と、言いようのない焦燥が湧きがる。 18、父親のに耐えさせてきた。 寂しいいをさせないように必で育ててきたつもりだった。 けれど、やはり娘のには、実の父親に対する慕が眠っていたのだろうか。
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「優秀な自分」を認めてくれた父親に、美咲は惹かれてしまうのだろうか。 あんな男に、美咲が傷つけられるのを見たくない。
「美咲、あのはね……あなたがっているようなじゃないかもしれないのよ。今だって、あなたの格を聞いて突然――」
「わかってるよ」
美咲は私の言葉を遮った。 その顔には、父親への憧れや期待など、微も浮かんでいなかった。
「お母さんがこれまで、私にあれこれ言わなかったこと、謝してる。私を傷つけないように、悪ひとつ言わずに育ててくれたことも。でもね、お母さん」
美咲は机のに置かれたスマホを指先でトントンと叩いた。
「私、ずっとりたかったことがあるの。あのは、父親をやりたくなかったなのか。それとも、私の父親だけをやりたくなかったなのか」
その言葉のみに、私は息を呑んだ。
「それをね、自分の目とで確かめたいの。18歳になった私の責任として」
美咲の瞳の奥に宿る、揺るぎない。 それは私が守ってきた「子ども」の目ではなく、ひとりの自したのだった。
「……わかったわ」
私は震える唇を噛み締めながら、頷いた。
「美咲の会いたいようにしなさい。でも、無理だとったら、いつでも席をっていいのよ」
「ありがとう、お母さん」
美咲はさく微笑むと、制のポケットから自分のスマートフォンを取りした。
「じゃあ、連絡先教えて。駅のファミレスで会うことにするから」
淡々と操作する美咲の横顔を見つめながら、私はまだ気づいていなかった。