みかん小説
本棚

"「お前は家族じゃない」と言った夫へ" 第12話

「それは、あなたのよ」

私はまっすぐに正彦の目を見据えた。

「私のじゃないわ。財産分与と慰謝料、そして私がこれまで自費でて替えてきた介護費用の清算については、弁護士を通じて面で送ります。このはあなたの名義だから、私は今週末にていきます」

「弁護士……? お、そこまで……!」

「今週の曜までに、署名と捺印をしてポストに入れておいて。もし応じないなら、庭裁判所に婚調を申してるだけです。責配偶者としての証拠も、当な搾取の記録も、すべて揃っていますから」

私はちがり、自分の荷物がまとめてある寝へと向かった。

背で正彦が「美智子! 美智子、待ってくれ!」と叫びながらにすがりついてきたが、私は度も振り返らずにドアを閉め、内側から鍵をかけた。

それからヶが過ぎた。

婚続きは、弁護士のによって淡々と、法律の定めの通りにめられた。

正彦は最初は抵抗し、親戚や共通のを通じて復縁を迫ってきたが、弁護士から「これ以の直接接触は接禁止の仮処分を申請する」と通告されると、完全に沈黙した。 最終に正彦は緑のに判を押し、佐藤美智子だった私は、旧姓の「森脇美智子」に戻った。

財産分与として、預貯の正当な取り分と、過に私が個座からて替えていた介護費用の部が、正彦の退職見込み額から担保される形で戻ってきた。

広告

佐藤のそのについては、域の福祉関係のからの噂でに入ってきた。

美智子という防波堤を完全に失った佐藤は、現実という名のたい壁に直面していた。

民の級乗せサービスを受けられなくなった義母は、公な介護保険の枠内だけで利用できる特別養護老ホームへの入所を余儀なくされた。 かつて「姥捨て」と見していた公なの施設だ。 々の費用は義母の遺族の範囲内で収まるようになったが、かつてのような個別リハビリも、好みにわせた個別調理もない。

義母は入所初から「こんない飯がえるか」「もっと広い個に入れろ」と職員に当たり散らしているそうだが、公施設の職員は毅然としてルール通りの対応しかしない。 儘を聞いてくれる嫁は、もうどこにもいないのだ。

正彦、弘、恵子の兄妹は、毎の施設利用料のわずかな自己負担分や用品代の分担を巡って、いまだに醜い骨肉の争いを続けているという。 「男がく払うべきだ」「均等に割るべきだ」「私は嫁にた」 かつて私ひとりに押し付けていた荷を、今さら自分たちで背負うことになり、兄妹の仲は修復能なほどえ切ったらしい。

誰も破産はしなかった。 誰もには迷わなかった。

ただ、のを削って享受していた「都のいい贅沢」

広告

と「見栄」が剥ぎ取られ、本来あるべき自分たちの責任のに、全員が等しく叩き落とされただけだった。

、初の。 洞爺の畔には、澄み切った青空がどこまでも広がっていた。

面を渡るはし肌寒く、肌をよく撫でていく。 くに見える羊蹄の頂には、うっすらと初冠のが輝いていた。

「美智子、本当に顔良くなったわね」

隣を歩いていた代からの親友、陽子が温かい缶コーヒーを渡しながら笑った。 「あのの美智子、本当に今にも消えちゃいそうだったもの」

「そうね……あの頃は、息の吸い方すら忘れてた気がするわ」

私は両で温かい缶を包み込み、く息を吸い込んだ。 たい空気が肺の底まで満ちていく。 誰かの顔を窺う必も、急な呼びしに怯える必もない、完全な私の空気だった。

「ねえ、美智子。せっかくだから写真撮ろうよ。をバックにして」 陽子がスマホを取りした。

私は条件反射のように、自然とを差しした。 「あ、うん。貸して、撮ってあげる」

の習慣。 旅先でも、誕でも、お正でも。 誰かが「写真を撮ろう」と言えば、私の役割はいつも「シャッターを押す側」だった。 カメラを構え、ファインダー越しに笑う誰かの姿を切り取ることだけが、私の居所だった。

けれど、陽子は差しされた私のを、優しく押し戻した。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: