"「お前は家族じゃない」と言った夫へ" 第11話
義母は震えるを伸ばし、私の首を掴もうとした。 私はそれを、音もなく静かに避けた。
空を切った義母のが、テーブルのに落ちる。
「じゃあ……じゃあ、美智子さん! 次よ! 次の正! 次の正にみんなで写真を撮るは、あなたを番真んに入れてあげるから! 私の隣に座らせてあげるから! それでいいでしょう!? だから戻ってきてちょうだい!」
必の形相で叫ぶ義母の顔を、私はじっと見つめた。
しみはなかった。 りも、もう湧いてこなかった。 ただ、どこまでもたく澄み切ったが、私の胸を支配していた。
「結構です」
私の声は、驚くほど静かだった。
「私はもう、無理やり居所を作ってもらうような写真に、入りたくありません」
義母が息を呑み、固まった。
「お義母さんの面倒は、する実の子どもたちに見てもらってください。それでは、失礼します」
私は伝票を取り、千円札を枚テーブルに置いて席をった。 背から「美智子さん! 美智子さん!」と呼ぶ義母の鳴が聞こえたが、私は度も振り返らなかった。
自宅に戻ると、リビングで正彦が待っていた。 スーツのネクタイを緩め、テーブルのに置かれた缶ビールを見つめていた正彦が、私の音に気づいて勢いよく顔をげた。
「美智子! 母さんと会ってきたんだろ!? 母さん、謝ったのか!?」
正彦が駆け寄ってきた。
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その顔には、すがるような堵のが浮かんでいた。
「母さんも反省してたろ? もうの話はいいよ。おにおをせとは言わない。母さんの介護保険の範囲内で、できることだけでいいからさ。俺も伝うから。……だから、やり直そう。の活に戻ろう、な?」
必に笑顔を作ろうとする夫の顔を、私は見つめた。
「の活って、どの活?」
私の乾いた問いに、正彦の笑顔が引きつる。
「あなたがで親孝息子の顔をして、私がであなたの母親のの世話をする活? 『おは仕事をしてないんだから』と見されながら、あなたの族の雑用を全部押し付けられる活? ……それとも、族写真のシャッターを、からで押す活かしら」
「美智子……俺が悪かったよ! 俺が全部悪かった! だから……!」
「いいえ、正彦さん」
私は持っていたバッグのファスナーをゆっくりとけた。 から、緑の枠線が印刷された枚の類を取りす。
テーブルのに、静かに滑らせた。
央に、きく印字された文字。
『婚届』
すでに私の署名と捺印が、寸分の狂いもなく済まされていた。
「これに、判を押してください」
正彦の瞳孔がき、呼吸が止まった。
「……婚届?」
正彦の喉から、ひび割れたような声が漏れた。 テーブルのに置かれた緑のを、まるで爆弾でも見るかのように凝している。
「嘘だろ……? 美智子、おい、冗談だろ……? なんでだよ! 母さんも謝ったし、俺も謝ったじゃないか! ももうさなくていいって言ってるんだぞ!?」
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「謝罪が欲しかったわけじゃないわ」
私はコートを脱ぎ、子の背もたれにかけた。 元を乱すこともなく、静かに腰をろす。
「あなたが謝ったのは、自分の活が破綻しそうだからでしょう。お義母さんがをげたのは、息子の世話が雑でできないからでしょう。私の尊厳を踏みにじったことへの反省なんて、最初からミリもない」
「そんなことない! 俺はおを……おを族だとってる!」
「族?」 私は乾いた笑いをこぼした。
「、度でも私の話を聞いたことがあった? 私がをして寝込んだ、お粥の杯でも作ってくれたことがあった? あなたがに持ち帰るのは、で作ったいい顔の残骸と、母親への言だけ。私が耐えられたのはね、いつか報われるとっていたからじゃないわ。ただ、引き受けた責任を途で投げるのが嫌だっただけよ」
正彦のが、テーブルのでわなわなと震えている。
「でも、あの、伊豆でお義母さんに『族じゃない』と言われて、そのスマホをあなたに押し付けられた瞬、目が覚めたの。私はこののでもなければ、あなたの妻ですらない。ただの、名義の雑用係だったんだって」
「美智子、頼むから考え直してくれ! 今おにてかれたら……俺はどうすればいいんだよ! 母さんの介護も、仕事も、宅ローンだってまだ残ってるんだぞ!」