みかん小説
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"「お前は家族じゃない」と言った夫へ" 第8話

「どうするって……」

私の唇が、ややかに弧を描いた。

「あなたたち、族なんでしょう?」

正彦の息が止まった。反論の言葉を探してパクパクとを閉させる夫を残し、私はスーツケースのジッパーを、静かに引きげた。

への泊の旅は、私のので最も静かで、最も贅沢なだった。

見渡す限りの青い空と、どこまでも続く樺の並。 朝、誰の指図も受けずに目を覚まし、湯気のつ温かい茶をむ。 義母の排泄物の臭いもしなければ、杖でを叩く威圧な音も聞こえない。 「美智子、飯はまだか」「美智子、母さんの薬を取ってくれ」と、私を雑用係としかっていない男の鳴り声もない。

スマホの源は、宿に着いた夜に度だけ入れた。 画面には、正彦からの着信履歴が件、義妹の恵子からの文の非難メッセージが件並んでいた。

『お本当にか? 母さんがをしたらどう責任取るつもりだ』 『今すぐで戻ってこい。親戚におのさを言いふらしてやるからな』 『お兄ちゃんが会社を休んで母さんの世話してるのよ! 恥をりなさい!』

画面を眺めながら、私のは驚くほど凪いでいた。 かつての私なら、が震えて血の気が引き、次の便で引き返して「申し訳ありませんでした」と平伏していただろう。

けれど、いま胸の奥にあるのは、え切った軽蔑だけだった。

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源を落とし、私はホテルの窓から洞爺の静かな面を見ろした。 誰にも私のを奪わせない。そうに決めていた。

旅を終えて自宅に戻ったのは、義父の回忌法のだった。

玄関をけると、異様な臭いがをついた。 ゴミの腐った臭いと、湿布のツンとした刺激臭。 廊には脱ぎ散らかされた正彦のワイシャツと靴が放置され、台所のシンクには油で汚れたコンビニ弁当の容器が積みになっていた。

たった、私がを空けただけで、このの「常」は完全に崩壊していた。

「……帰ってきたのか」

リビングのドアがき、正彦が現れた。 無精髭が伸び放題で、目のには黒々とした隈が張り付いている。 で別のようにやつれ果てた夫が、私を睨みつけていた。

「母さんは寝てるよ。はがったが、腰を痛めて歩けない状態だ」 正彦の声は擦れ、今にも折れそうだった。

「そうですか。ケアマネのさんには、ショートステイの配を提案してもらっていたはずですが」

「あんな税棒の施設に母さんを預けられるか! 『親戚にバレたら世体が悪い』って母さんが泣き喚いたんだよ! 結局、俺が仕事を休んで全部やったんだ! の世話も、着替えも、飯の買いしも!」

正彦は声を荒らげ、拳を震わせた。

「おのせいで、俺は今週のな役員プレゼンをすっぽかしたんだぞ! 査定に響いたらどうしてくれるんだ!? お、の法で親戚たちに全部説しろよな。

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『自分が儘で旅にって義母を放置しました』って、座して謝れよ!」

私は汚れた廊を瞥し、静かにスーツケースを自分の部へ運んだ。 「法には予定通り席します。お義父さんの法ですから」

その言葉に、正彦は「反省したのか」と勘違いしたようにを鳴らした。 「は叔父さんたちも来る。おの親孝ぶりを、みんなでたっぷり叱ってもらうからな」

翌、菩提寺の法事会館。

読経が終わり、親族が集まる控に、張り詰めた空気が漂っていた。 央には、子に座り、いかにもやつれたを装ってハンカチを目元に当てている義母の節子。 その横で、義弟の弘と義妹の恵子が、私を睨みつけるように座っている。

「……美智子さん、ちょっといいかい」

沈黙を破ったのは、親族ので最も発言力のある父方の叔父、佐藤昭だった。 元で、昔から佐藤の「制度」や「男の責任」にうるさい厳格な者だ。

「正彦や節子さんから聞いたんだがね。美智子さん、君はここ最、節子さんの介護を放棄して、挙句の果てにで旅へっていたそうじゃないか」

親戚たちのややかな線が斉に私へ突き刺さる。 「男の嫁が介護を放りすなんて」「正彦くんが会社を休んで病したらしいわよ」

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