"3年墓参りした義父が、古い家の壁の奥で呼んでいる" 第9話
「〇のあの、正雄さんが私に残した言葉があります。浩司さんを問い詰める直、正雄さんはひどく怯えた様子でこう言っていました」
先の線が、私の瞳の奥を射抜くように捉えた。
「『浩司の借は、この件だけではないかもしれない。あいつはもっとい沼にを突っ込んでいる』と」
臓が、たいに浸されたようにくなる。
「そして、正雄さんはこう言ったのです」
清先の言葉が、私のの奥に突き刺さった。
「『浩司があの子の名を平気で使ったのは、直子さんが絶対に自分から逃げられないと、を括っているからだ。直子さんには寄りがない。婚してできていく勇気なんてない。だから、どんなを被せても泣き寝入りするに決まっていると……あいつは実の嫁を、ただの都のいい代わりとしかっていないんだ』」
窓ので、ぬるいの突が吹き荒れ、ガラス戸をガタガタと揺らした。
の結婚活。 私の従順さは、夫にとって「」でも「信頼」でもなかった。
ただの、都のいい贄。 どんな罪を着せても声をげない、便利な盾。
その盾を守ろうとしてくれた父親を、夫は檻に閉じ込めたのだ。
私はゆっくりと、涙を拭った。 の震えは、いつのにか完全に止まっていた。
胸の奥のたい空洞に、黒く、研ぎ澄まされた炎が音をてて灯るのをじていた。
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警察署の取調から戻った義父の供述調の部を、清先がい調で読みげた。
「……正雄さんは、病院で識を取り戻した直、護師に何度も『直子さんに話を繋いでくれ』と頼んでいたそうです」
法律事務所の応接。が差し込み、机の目を赤黒く染めている。
「しかし、浩司さんと子さんはそれを引に遮った。そして退院させたの夜、母の居で正雄さんが再び『直子さんに会わせろ、あの子の連帯保証をに戻す』と言い募った瞬――」
清先が度、言葉を切った。 鏡の奥の瞳が、りでく尖っていた。
「浩司さんは正雄さんをれへ引きずり込み、側から鎖を巻いた。そして翌朝、窓に分いベニヤ板を打ち付けたそうです」
『おが余計なことを喋ったら、がめちゃくちゃになるんだよ』
それが、息子が父親に浴びせた最の言葉だった。
声がなかった。 喉の奥がカラカラに乾き、唾液をみ込むことすら痛い。
あのは、倒れて自由の利かない体で。 言葉すら満にない舌で、必に私の名を呼び続けていたのだ。 私の未来を守るためだけに。
その代償が、のき埋めだった。
「直子さん。今すぐ実へ向かいましょう」
清先がちがり、黒い革鞄を掴んだ。
「浩司さんと子さんは、警察の追及を『単なる介護疲れによる過失』で押し通そうとしています。
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だが、過失などではない。計画な幽閉と、財産の横領です。それを証する証拠を、今すぐあのから保全しなければならない」
タクシーが夕暮れの宅を抜けていく。 窓を流れる見慣れた並みが、まるでの記憶のようにい。
実のに到着すると、庭の解体現には黄い規制線が張られていた。 母の玄関の引き戸にをかける。 鍵はいていた。
に入った瞬、を突いたのは、あの濃密なラベンダーの芳剤の臭気だった。 居へ続く襖をける。
きなちゃぶ台のに、義母の子さんが座っていた。 にはいハンカチを握りしめ、テレビもつけずにぼんやりと座り込んでいた義母は、私と清先の姿を見るなり、弾かれたようにちがった。
「な、何よ! のにでがり込んできて!」
その声はずり、瞳は怯えに濁っていた。
「子さん。弁護士の清です。正雄さんの成見の申して、および財産管理の調査のために伺いました」
「弁護士……!? 直子、あなた本当に何を考えてるの!?」
義母は鬼のような形相で私に詰め寄ってきた。 派なパーマの毛先が、りで震えている。
「族の恥をに晒して、浩司の会社を潰す気!? 私はね、騙されてたのよ! 浩司が『親父は病院にいるとがかかるから、で静養させる』って言うから……私は寄りだから、介護のこともおのことも何も分からなくて!」